【7 前編】宵待ちミーティア ページ23
そういえば、不思議に思うことは他にもありました。飴、錠菓子、雲菓子。山椒さんがくれた、鮮やかなお菓子たち。わたしに一つ差し出して、自分も一つ口にして、残りはまとめて袋の中へ。その袋はついさっき、山椒さんが戻ってきたときに無くなりました。あれはどこへ置いてきてしまったのでしょう。
それに山椒さんといえば、彼はお店の方々と何を話していたのでしょうか。
花火の色に頬を照らされながら、ちらと隣を見てみれば、空へと真っ直ぐ目を注ぐ山椒さんがいます。どん、とまた一つ花が咲いて、夢が醒めるように暗闇へと散ってゆきます。わたしは思考に立ち返りました。
花火の支度に於いて、最も用意が困難なもの。その場のもので代替できないものはなんでしょう。
爆弾ではないか、という気がします。
色ならば見回せばそこら中に、それこそお菓子にだって使われているけれど、火薬や信管や爆弾は、日常の中ではそうそう見かけない代物です。
お菓子、そうです。お菓子を売ってくれたお店の方々に、山椒さんは何を言ったのでしょう。何を言えば、帰ろうとする人の足を止められるでしょうか。止めようという気になるでしょうか。
"祭りの終わりに、ちょっとした出し物をやるのは知ってるか"
もしもわたしが同じ立場なら、たとえばそんな言葉を掛けられれば、浮かせた腰ももう一度、落ち着けたくなるかもしれません。
――お店の方の足を止め、得た菓子を染料に火薬を彩り、夜空に花を咲かせることが、山椒さんにはできたのかもしれない。
思い至って、ふと笑みが零れます。
でも、きっと違うのでしょう。
これは単なる花火ではなくて、花火と呼ばれることもある、お空からの贈り物なのでしょう。
開いているのは火の玉ではなくお星さまで出来た花びらで、咲いているのは不思議な宵待草なのでしょう。
星降るお祭りの夜ですもの。
知らない世界のひとつやふたつあったとしても、それを誰かが願っていたとしても、おかしくないはずです。
｢ねえ、山椒さん｣
｢どうした｣
｢山椒さんは、何を願いますか｣
｢流れ星にか｣
｢はい。尋ね忘れてしまっていました｣
｢そうじゃなぁ。何を願うかなァ……｣
色とりどりに輝く花がひらひらと落ちる度、わたしたちを影が包みます。次の花が咲くまでの僅かな間ですが、息継ぎのようなその数秒間が、けれど印象に残ります。
山椒さんの表情が少し変わったような気がしたけれど、闇に覆われよく読み取れませんでした。
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作者名：小春 | 作成日時：2022年7月20日 16時
