【5 後編】宵待ちミーティア ページ21
逡巡し、願い事を改めます。
｢……また、お祭りに来れますようにと｣
にこにこと笑んでいた山椒さんが面食らった顔つきになり、かと思えばくしゃりと破顔しました。
｢んなもん態々願わんでも、何遍だって――｣
途中ではたりと止まります。
｢――連れて来てくれるじゃろうよ。誰かしらがな｣
夜闇の中、山椒さんの瞳が揺らぐのが見えました。その只一瞬の懊悩を見逃していれば、それを透かして見てしまう妙な賢しさが自分になければと、俄に後悔が頭を掠めます。
そうです。こんなお仕事をしている以上、いったいいつまで並んで夜空を眺められるかなんて……
｢お、流れた｣
｢えっ。どこですか｣
山椒さんが指差すほうを急いで見れば、確かにきらきらと、筋のように瞬く光が見えました。駆けた後の残滓でしょう。口を開いて何事か言おうとした瞬間、視界の端が煌めきます。今度はちゃんと、始まりから終わりまでを捉えました。
眩むくらいの輝きが細く太く夜を駆け、ふっと消える様が目に焼き付きます。願いを念じなければいけなかったと思い出したのは、夜空に暗闇が戻った後でした。
｢ほんとうに……ほんとうに、流れてました。すごいですね。きれいでしたね｣
｢おう、こっちやのうて空ァ見とけ。すぐまた流れるぞ｣
見られた喜びのまま話しかけ、そうだ次こそは願わねばと、斜め上へ目を戻します。
｢それにしても、縦に流れる流星なんてあるんですね｣
｢ははは。ほんに、空っちゅうもんは奇怪よのぉ。天に向こォて立ち上る流星もありゃあ、空に咲く宵待草もある｣
｢空に咲く……お花ですか？｣
｢見たことないか。ええか、空は全部を見てくれちょる。日頃から良え事ばかりしちょるとなァ、空の機嫌が良うなって、ようやっとるなと褒美に花を咲かして見せてくれるんじゃ｣
聞きながら花売り時代の記憶を辿りますが、まず間違いなく初耳でした。本当ですか、と尋ねようとしたとき、突然空の闇が晴れます。
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作者名：小春 | 作成日時：2022年7月20日 16時
