【3 前編】宵待ちミーティア ページ17
最後の一体が黒霧と化すのを見届けて、額の汗を拭います。いくら気が急いても体は重く、かえって日頃より多く失態を演じました。
月を仰いで察するに、時刻はお祭りの終了間際。
わたしは早々に杖を手放し、腰に差してから山椒さんを手招きます。
｢お疲れ様でした。ほら、早く行きましょう｣
｢おいおい、ちいたァ老体を労らんか。一眠りしてからじゃいかんのか｣
｢だめです。お店が閉まっちゃうじゃないですか｣
急ぐ素振りもなく首を鳴らす山椒さんに待ちかねて、先導に手を引きます。囃したてる民族音楽が耳に届く頃、遠くに露店の灯火が見つかりました。
｢――あっ。見てください、山椒さん｣
一歩踏み出すたび、冴えるような鮮やかさが近付きます。告知書の記述を思い返すに、このお祭りでは店の敷地を表すため、ひとつはカンテラを置かなければならないのですが、光色や数に決まりがないため、店毎にさまざまな色が見られるのだそうです。焦茶色で描かれた告知書では知る事が叶わなかった幻想的な色彩は、箱いっぱいの宝石か、夜空に広がるお星さまを想像させました。
｢……こんなとこまで再現しとるんか。懐かしい｣
感嘆の息を零す山椒さんに目を合わせます。
｢そういえば、山椒さんの故郷って｣
｢おう。確かウチじゃあ、星降祭っつうたか。ガキの頃はよお遊んで、ある程度んなったら開催側の法被を着たもんじゃ。あれもあるかのォ、昔はよう食ったんじゃが｣
区分としては、もう深夜に差し掛かる頃です。客足はまばらで、気を使わずとも好きなように歩けました。虹色の灯りの中をぶらぶらと進みながら、山椒さんは露店に目を配ります。そのままふらりと何処かへ寄ると、わたしが目移りしている間に、判子の捺された紙袋を下げて戻ってきました。
なんだろうと首を傾げれば、山椒さんの口角が片側だけ持ち上がります。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小春 | 作成日時：2022年7月20日 16時
