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【7 前編】はじまりのスプラウト ページ13

思い当たって、尋ねます。

「あの……山椒さんは、お仕事でこちらへ?」

山椒さんは、"なにを当たり前のことを"というふうに一笑します。

「はずれもんじゃああるけんど、某も冒険者じゃけえの。仕事無しにこげな所……」

機嫌よく回っていた山椒さんの口が唐突に固まりました。どうやらわたしの意図に気づいたと見え、表情はみるみるうちに渋いものへと変じていきます。

「……いや、着いて来な」
「お願いします」
「着いて来な。嬢ちゃんにゃあ早い」
「お願いします。……わたし、変わりたいんです。山椒さんみたいな、ちゃんとした冒険者になりたい。このまま帰ったら、きっと何も変われません」

何も答えず、身じろぎもせず、ただ視線だけを当惑も露に地へ向ける山椒さんに、一歩寄ります。
良くはないとしか言い表せない複雑な面持ちを向けられ、すこし言葉に詰まりました。散々困らせていると、今からまた困らせるだろうと承知の上での頼み事ほど、心の苦しいことはありません。言い訳じみて続けます。

「……お荷物なのは分かっています。お手伝いまでとはいいません。ですが、せめて、側で見させて頂くだけでも」
「いんや」

軽く頭を抱えていた山椒さんが、深い溜め息とともに手を立てて、わたしの声を遮りました。
語気の強い断りの言葉が来れば素直に退こうと思いながら、続く言葉を大人しく待ちます。
迷っているのか言葉を探しているのか、山椒さんはあれこれと忙しなく目を動かしてから、最後にわたしへ落ち着けました。

「……そいじゃあ手伝おてくれ。今思い出したけんど、そういやァ某が請けたんは易い採取じゃったわ。きつう言うてすまんの。なあんか勘違いしよった」

ばつが悪そうに苦く笑む山椒さんに、申し訳ない思いがしたことは確かです。山椒さんが、本来請けていた何か大きな仕事を後に回してわたしの我儘を優先してくれたことも、それを悟られまいとして自分の勘違いに片したことも明白。
けれど恐縮するのと同じくらい、その心遣いに胸の暖まりを覚えたのも事実でした。

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作者名:小春 | 作成日時:2022年7月20日 16時

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