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愛情 ページ10

母のときとはまた違う、例えようのない虚無感。

 瞼を閉じて、心を落ち着かせようとするけれど、そうすればするほど、頭の中に回るのはあの人のこと。

 あの人はどんな顔だったのか、どんな声で話してたのか、どんな背中をしていたのか。

 どうしよう、何も、思い出せない……。

「お、お父……さん」

 "お父さん"、という単語を、あの人を表すものとしてほとんど初めて発した。その途端にさっきより増して溢れ出る涙。しゃくり上げる嗚咽が虚しく響く。誰にも届かない。


 どれ程泣いていたのか、瞼が重たくなった頃、ふと手紙と一緒に入っていた通帳の存在を思い出す。

 腫れた目を擦り、テーブルの上に置きっぱなしにしてあったそれを手に取った。訝し気に開くと、そこには毎月同額の貯金がなされていて、残高は約一千万円という相当な額になっていた。

 最終記録のページには一枚の二つ折りの紙が挟まれていたようで、ひらりと床に舞い落ちた。手に取って広げると、またあの人の字並んでいた。



 父は私が生まれた時から、毎月三万円という額を貯金し続けたようだ。こんな事くらいしか出来なくてすまない、という文字を見た時、心臓をぎゅうっと鷲掴みにされたように痛くなった。

 ありがとうと言えない自分が居る。後から知らされる愛情を、素直に喜ぶことは出来なかった。それほどまでに謝るなら、一度でもいいから、母や私に愛情を示して欲しかった。

 あんなに、冷酷な態度をとってきたくせに、最後の最後にこんな事を打ち明けて去ってゆくなんて、酷すぎる。

 父からの愛情なんて全くないと思っていたから、欠片を探すことも、言葉の裏を探ることもなかった。だから私だって、父に愛情を示してこなかった。

 今まで、私は父を恨んできた。でも、真実を知ったら、そんな日々が無駄だと分かる。いったい私は何を責めれば良かったのだろう。

 いつかの母がふと頭をよぎる。

「こんなに辛くても、それでも、嫌いになれないの。愛って不思議ね」

 今更、その言葉が肌に痛く食い込む。

 あの時、無意識に耳を塞いだのは、それが私にも同じことだったからなんだ。同じだと認めたくなかったから、寂しい心を奥底に閉じ込めたかったから、耳を塞いだのだ。


 どうして愛情は見えないのだろう。


 何も分かっていなかった自分に罪悪感が募った。

寂しさという罰→←手紙



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設定タグ:オリジナル , 名前変換 , 不倫   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
- 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
- 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時

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