夢の幕引き ページ6
-朝倉side-
カランカランと、ドアに付いた鈴が乾いた音を鳴らして、彼女の影の見送っていた。
気を利かせて奥に引いていた店員が、音に反応して姿を表に見せたが、まだ僕が一人残っているのを確認して、また奥に戻った。
Aが去った店で、一人座り続ける。
静かに通り過ぎる時間は、僕を少しも癒してはくれず、ただ傷口を撫でてゆく。
彼女が頼んだ紅茶は湯気が消えていた。カップには口紅が、そこに彼女が居た証として、薄く残っている。彼女を感じたくて、おもむろにそれを一口飲むと、もうすっかり冷めてしまっていた。
「冷たい……」
急に寂しさが波のように流れ込む。
喪失感が、爪から全身に染み渡って、ため息となって漏れる。もう彼女に会えないことが信じられなくて、来週になればまた部屋に来てくれるような気がして……。
君は僕の生きがいだったのに。夢を託していたのに。どうして離れて行ってしまうんだ。また僕は人生を一つ失うというのか。
どれだけ心の中で叫んでも、その声は届かない。突然に夢の続きは幕を閉じた。
やりきれない思いで、拳を握りしめて震わせる。
もしかしたら最初から彼女は、僕への愛を持っていなかったのかもしれない。
でも、あの部屋で抱いていたあの体温は、確かに温かかった。
僕の隣で輝きを取り戻していった眼差しも、優しい指も、幼さを隠した笑顔も、偽りなんてことはあり得ない程、どこまでも本物だった。いつも彼女の愛がその裏側にあって、僕は会う度にそれに癒された。
最初に別れを告げられた後も、彼女からの愛情は伝わってきていた。冷たさを感じたことは無かった。さっきだって、さようならの言葉とは反対に、その目からは切なさが滲んでいて、まるで離れたくないと言っているようだった。
彼女が別れを決めたのは、やはり許されぬ恋だからなのだろう。
そこで、改めて気付く。僕は彼女に、行かないで、なんて言えない。引き留めて、どこにも行かないよう抱き締めることは出来ない。
何故なら僕は結婚していて、Aの愛を縛ることは出来ないから。今まで、夢の破れた虚しさを埋める為に、Aの愛を利用していたに過ぎないんだ。
では、僕の気持ちは愛だったのだろうか?
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時