妻の日々 ページ44
-恵美side-
少し眠い、季節は秋。
冬のような寒さはまだ匂わないけれど、外に出るには長袖一枚では足りなくて、そんな季節の風が街を撫でている。
ありふれた平日の昼下がり、あくびを一つした。
眠気に少々飲み込まれながら、嫌がる腰を上げて立ち上がる。
掃除機を出してコンセントを刺し、床を滑らせ始めた。数分前まで自然が奏でていたのんびりとした空間は、文明の利器から出る無造作で耳障りな音によって消えた。
掃除が終われば、次は洗濯を取り込んで、毎日の午後の家事の一コマがくるくると進んでゆく。
取り込んだ洗濯物を畳みながら考え事をするのが私の癖で、この時間はため息が増える。
広樹くんと気持ちが再び繋がる二年前までは、彼は今どう思っているのか、少しは傷が癒えたのだろうか、私の存在が少しでも彼の中にあればいいな、などと様々なことを考えてきた。無意識に涙が頬を濡らしていた時もあったが、その涙を素直に認められなくて、慌てて拭ってきた。
相も変わらず今でもこの時間は彼の事を考えるのだが、二年前までとは違うのはAちゃんのことも考えてしまうということである。二年前に彼に対して思っていたことを、そっくりそのまま彼女に対して思っている。
夜も近付き太陽に代わって街の灯りが影を作る頃、私はまだ家に一人で、広樹くんの為ではない、自分の為だけの夕食を作っている。
こんな時は、長かった寂しい日々を思い出して、不安の砂が心に降り積もる。
彼は会社の飲み会に行っているだけ、ただそれだけで、何も疑う要素も無いけれど、自分でも分からないくらいに落ち着かなくて胸がざわつく。
彼を信じていないとか、そういうことではなくて、自分の感情に目を向けるようになってから、彼の居ない時間や、いつもは彼が居るはずなのに居ない時、寂しさと恋しさと不安がやけに胸を打つようになった。
Aちゃんとは会っていない。彼女の母代わりになりたいという無茶な願いを、初めて会ったあの日に言ったけれど、今もその気持ちは変わっていない。彼女の拠り所となるような関係で繋がっていたいと思う。
でも、私は会えなかった。この気持ちはただの独りよがりであるし、私は広樹くんの妻であるから。
39人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時