心の時計 ページ20
そしてまた毎日が当たり前のように流れ、一人ぼっちになってからもう数か月経った。
暦の上では時間は確かに動いていて、私の仕事もほとんど元に戻っている。
けれど、心の時間は進んでいない。三年前に母の死によって止まった時計は、微かに動いたかのように思えるときもあったが、また止まった。
それでも、どんなことがあっても、一日の時間は変わらない。体は生きる為に水を欲する。そんな当たり前のことにすら苛立ちを覚えるけれど、お構い無しに月日は進んでゆく。
今どうすれば自分を救うことができるのか、どんな言葉を知れば傷が癒えるのか、どれも答えは無い。
重い重いため息が部屋に積もってゆく。このままため息に押し潰されて消えてしまいたい。
ダイニングテーブルに顔を伏せて座り、暗い視界の中の木目を眺める。
疲れて瞼を閉じれば、浮かぶのは傍を去っていった人たちが何度も浮かんでは消える。
何一つ忘れられるはず無いんだけれど、離れている時間が長くなるほど、忘れたくない人ほど、記憶の鮮明さは失われる。だから、何度も一からその姿の記憶を辿って、何度も愛しい影を心の中でなぞる。けれど、その残像は本物なのか、答え合わせも出来ない。
きっとこれからも、無意識にもその人達のことを考えるだろう。
「寒い……」
いつの間にかもうすぐ年末で、体を責める寒さが強くなっている。
急いで暖房を入れて、再び元の場所に戻った。
「ごめんなさい」
何かに向けてなのか、はたまた全てに向けてなのか、自分でも分からない的外れな謝罪を繰り返す。
どれくらいこうしていたのだろう、ふと顔を上げればもう真夜中近くだ。途中、眠ってしまったのかどうかもよく覚えていない。
無気力な体に鞭打って、自室に行こうと階段を上がっている最中に、手に持った携帯が鳴り響いた。
聞いたこともないくらいの脈拍が、全身を震わせるくらいに伝わって、階段を落ちそうになった。
数秒前の気怠さは何処へ行ったのか、着信画面も見ずに階段を駆け上がる。
あの人の名前を信じている。お願いだから、まだ切れないで。
その電話を取るべきかどうか考える理性は残っていなかった。それは、さっき夢と現の間を彷徨ったせいなのかもしれない。
39人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時