幸せだからいい〜その2〜【名前変換オリジナル】

友人の温かさ ページ12

由貴は何も聞かずに柔らかく抱き締め返してくれた。トントンとリズムよく穏やかに叩かれる背中に落ち着きを取り戻す。

　暫くしてまた焦りが追いかけてきて、バッと彼女にもたれかけていた体を起こし、「仕事！」と叫ぶように声を上げれば、やや呆れた笑みを返された。

「今日は祝日だから大丈夫だよ」

「あ、れ？ そうだっけ」

　すっかり忘れて焦っていた自分が恥ずかしくて、照れ隠しのように笑う。
　けれど心の中には、焦りで隠されていた寂しさが顔を出して、再び雨が降り始めた。胸を刺す痛みに眉をひそめ、収まっていた涙がまた薄っすらと瞳を濡らす。

　すると目の前の彼女は、もう一度強く私を抱き締めてから、慰めるような微笑みであやすように頭を撫でた。

「シャワー、浴びておいでよ。その後でゆっくりしよ」

　優しく私の体を離し、脱衣所まで案内してくれた。着替えを鞄の中から持ち出して、中に入り扉を閉めると、「そこのタオル使ってね。お風呂の中の物も自由に使っていいら」と声が聞こえて、胸が温かくなる。

　お湯を体に浴びせると、由貴の優しさに押し出された涙がぽろぽろと、シャワーに隠されながら嗚咽と共に流れた。
　お母さんが居なくなった時に実感したことだけれど、やはり涙はどれだけ泣いても枯れるなんてことはない。

　浴室から出て、リビングで由貴に話を聞いてもらっている時も、相変わらず涙は流れ続けていた。

　全て話し終えて、暫しの沈黙が流れる。そして静かに由貴は言葉を紡いだ。

「A、よく今まで頑張ったね。もう、頑張らなくてもいいよ」

　それは、乾ききった心にじんわりと染み渡って、より一層涙を誘った。

　一通り泣いて、やっとまともに話せるようになったのは、もう午前十一時だった。

「本当にごめんね。昨日は入ってすぐに寝ちゃって、今日だって迷惑いっぱいかけて」

「ううん、全然いいよ。寧ろ頼ってもらえて嬉しいから」

　どうして彼女はこれほどまでにかっこいいのだろう。

　そんなことを考えていると、ふと彼女が聞いた。

「家は？ 一人で住むの？」

「うん、今のところはあそこから出るつもりはないかな」

　両親の面影が匂うあの家に住むのも辛いが、それを捨てることも今の私には出来ない。

そのままで→←寂しさという罰

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