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「今の俺なら、絶対Aを離さなかったけど、」





しばらく沈黙が流れてから、三ツ谷がまた口を開く







「Aの中での俺って多分、すげー物分りがよくて適度な距離保ってくれる余裕ある男だと思われてたんだとおもうけど」




自分で言うのもあれだな、と少し照れたように鼻の辺りを触りながら三ツ谷は言葉を続ける





「でも俺本当はそんな余裕なくて。あいつが俺から離れていってるのも気付いてたからもちろんまた取り戻したかったけど。Aの中の、俺の像を壊したくなくて。そういうAの中の俺が壊れた時、あいつが受けいれてくれるかって考えたら、なんも出来なかったんだよなあ、」









なぜだか。そこで負けてしまったように、思う。


ずっと隠していた、あえてはっきり言葉に出すことはしなかったけれど。1度だけ。あいつを押し倒してしまった俺と、あいつのことが本当に好きで傷つけたくないがため自分を押し殺してAを手放したあいつは全然違うようにおもえた。





「お前ん家知ってたから本当はAの家も知ってて。送り届けられるはずなのにホテルに連れてった俺も、あいつは多分ばれてないつもりだったと思うけど。最寄りまで特急で帰れるはずなのにわざと各駅電車に乗ったAも。同じ気持ちから来るがゆえの行動だったと思うけど、」




………その。ホテルの話はAから聞かされてないわけで。Aと出かけたことがあっても、あいつが帰りを遅らせようとしたことはなかった。


Aのなかでの、俺と三ツ谷の立ち位置が全く違うのは分かっていたはずなのに。また納得がいかなくて、缶に残っていた酒を一気に飲み干す







「それでもAのことを、また取り戻すには。俺も、あいつも、あん時からなんにも変わってなかったんだよな」



「……何言いてぇの?」








「おれは結局あの時から変わってなくて、Aが大切で、Aの中の俺を壊す勇気はなかったんだよな」


「多分、A以上に好きになれる人はいないし。それでも俺とあいつがまた並んで歩くことはもうないし、俺が守る立場でももういられねぇけどさ。幸せでいてくれれば、それでいいんだよな」






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作者名:Anju | 作成日時:2022年8月13日 17時

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