8 ｢…2020年じゃん…、｣ ページ8
ぐぐ、と苦しそうに立ち上がった狐の、体と畳の間に血がぽたぽたと垂れる線が見えた。
「え、」
普通の生活の中で目にすることは無い量の血が視界に入って、さーっと青ざめる。
動揺と共に狐の体の前で、あたしはあたふたと手を右往左往させた。
｢っあの、そんな、怪我してるなら無理に立たなくても大丈夫だから……！！｣
畳、真っ赤じゃん、
こんな、え、
(ほんとに何でこんな怪我、)
｢いまは、｣
｢へ？｣
｢今は、…っ、西暦何年ですか、｣
痛みに耐えるように、絞り出すように発せられた狐からの初めてのまともな言葉はそれだった。
せいれき、せいれき…って、今の年…？
何でそんなことを聞くのか全然分からなかったけど、ぐっと苦しそうにあたしを見直した狐に、困惑しながら、蚊の鳴くような声で小さく答えた。
｢何年、って、…2020年じゃん…、｣
あたしの返事を聞いて、とうとう狐はその顔を見たことも無い程苦し気な顔に変えた。
やはり、まさか、そんな、とぽつりぽつりと答える狐の足はふるふると震えていて、あたしはますます自分がこの狐に何を言ってしまったのか分からなくなる。
｢さっきから、なんなの、｣
夢じゃない。ネタばらし係も、一向に現れない。
頭の淵に浮かんでは拒否していたあるひとつの可能性が、侵食するようにその影を強めてくる。だってそんなの、こんな一般人のあたしが体験するわけないし、何より、ありえないでしょ
もしかして、あたしが、
(別世界に来たかもなんて、)
また涙がぶり返しそうになったあたしは、青年の方に振り返った。彼は、土下座の姿勢で顔だけを上げたまま、その整った目をこれ以上出来ない程かっぴらいてあたしを見ていた。
｢主………？｣
｢……｣
｢……、…主、ですか……？｣
別世界に来たかもしれない。その結論が脳に着地した途端、更に恐ろしい発想があたしの中で形成される。
本当に勘弁して。
｢一期一振｣
狐が、声を発した。いちごひとふり。
なんの言葉か全然分からなかったけど、ひと呼吸置いて、狐が再び小さくお兄さんの方を見て言った。
｢…この方は、……私達の審神者とは、別の人間かもしれません｣
恐ろしい発想、それは、
(あたし、別の世界のあたしになっちゃったのかもしれない)
脳内で木霊した、二人の男子高校生＆女子高生の、｢入れ替わってるうー？！｣の声は、今のあたしになんら安心の欠片も与えてはくれなかったし、RADWIMPSも鳴らなかった。
9 ｢貴方様は、この本丸の、主です｣→←7 (あるじ、とか言わなかった？)
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ゆり - 面白かったです！！続編も気になります。見てみたいのでパスワード教えて下さい。お願いします(＞人＜;) (2022年5月4日 17時) (
レス) id: a0139c2d82 (このIDを非表示/違反報告)
plus__m(プロフ) - 登場人物達の感情や情景がとても細やかに書かれていて、読んでいるだけなのにその場を身をもって体験しているような気持ちになってとても面白いです！特に緊迫したシーンは息が止まっていることも忘れて読んでました笑。続編の加筆修正終わるのを楽しみにしております！ (2022年4月19日 20時) (レス) @page50 id: 5adad14c72 (このIDを非表示/違反報告)
キャンドル(プロフ) - めちゃくちゃ面白いですね、この作品！続き、楽しみに待っております！ (2022年3月30日 20時) (レス) @page50 id: ff7e3e1da7 (このIDを非表示/違反報告)
白夜ナイ - 続編のパスワードってなんですか？気になるんですがパスワードが分からなくて読むことができません！教えてくださいm(*_ _)mm(_ _)m (2022年3月25日 22時) (レス) id: d118b4d7f4 (このIDを非表示/違反報告)
Momo_Tarou(プロフ) - 鳥さん» 続編おめでとうございます！！！絶対絶対絶対×∞に夜見に行きますので！！！ (2020年2月26日 7時) (レス) id: 55132ee02b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鳥 | 作成日時：2020年1月29日 3時
