家出、助けます。【梵天】

自業自得 ページ1

大丈夫、大丈夫…。
いつも通りのことだから。


あと1時間もすれば、
彼は仕事に行くはず。


それまで耐えれば、
また1日は静かに過ごせる。







「じゃあ、行ってくるから。
戸締まりして、誰か来ても開けんなよ。」


『……はい。』



「チッ。つまんねー女。
帰ってくるまでに、その汚ねェツラ、何とかしとけよ。」



『………。』



「おい。また殴られてェのか？返事は？」



『……はい。』












この家で、
扉が閉まる音は、
彼が出掛ける時と、帰ってきた時にしか
響かない。














『いっ…たい…。』



彼が仕事に行った家の中で、
私が1番最初にすることは、
傷の手当て。


口元の傷が今日は1番深いかな。
あ、足か。折れてなきゃ、まぁいいや。












婚約者の家で同棲。


世の独身女性なら、多かれ少なかれ
憧れる響きだろう。


少なくとも3ヶ月前の私はそうだった。







特別ロマンチックな出会いではなかった。
所謂、同僚の紹介。


断るのが下手な私は、
紹介も、その後の交際の申し込みも、
断ることが出来なかった。


特別愛されているとは思えなかったし、
愛してもいなかったのに。






周りに、


こんな優良物件逃しちゃダメ
あの人を逃したらもう結婚は出来ないよ


と言われ、気付いたら頷いていた。






そう、自業自得。


トントン拍子で進んだ婚約話も、


同棲という名の、軟禁状態も、


私の可愛げの無さが招いたらしい
彼からの暴力も。

．→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す