検索窓
今日:10 hit、昨日:30 hit、合計:250,261 hit

・48 ページ48

この頃の彼女はまだ知らないのだろうか。いや、もう知っているのかもしれない。もしかしたら、母親が隠し通して、守り抜いていたのかもしれない。それでも、この頃の彼女はきっと、今に比べればずっと幸せだったのだろう。

父親に理不尽にも暴力を振るわれて、兄の死の真相を一人で探し続けて、どんなに探しても見つからないそれを諦めずに探し続けた。その先にあったのは大人の汚い闇だけ。大好きだった兄を殺したのは、その兄の実の父親であった。それを知った時彼女はどう思ったのだろうか。殺意を芽生えさせるほどなのだから、相当な怒りだっただろうと思う。当たり前だ。もし自分が彼女の立場であってもそうしてる。

でもこの頃の、昔のこの幼い彼女はそんな辛い現実をまだ知らない。その辛い現実を知らないまま大きくなってくれればよかったのに、なんて柄にもなく考えてしまう。でもこれは心の底から思うことだ。

父親は優しくて、母を愛し、幼い娘を可愛がり、立派に成長した息子を誇らしく思いながらも、時に厳しく。威厳のある、娘からも息子からも尊敬されるような父親。そんな父親だったら、きっと彼女は幸せだったのだろう。

蘭は知っていた。彼女が幸せそうな家族を見て寂しそうな、悲しそうな顔をしていることを。高校生と言っても、まだ子供だ。言ってしまえばつい最近までまだ中学生だったのだ。 それまでの間に、最愛の母を亡くし、兄を亡くした。父親だって、あんなろくでなしでも一応は彼女の家族だったのだろう。





「………………俺が守ってやんねぇとなぁ。」





守ると誓った。彼女に想いを伝えたあの日からだ。絶対に守り抜くなんて約束は出来ないけど、守ってやると誓ってしまったのだ。

籍だってまともに入れてやれるか分からないけど、いつか彼女を灰谷にすると決めている。彼女が望むなら家族だって作るし、必要ないならそれでも構わない。いつまでも彼女と、レオと、自分と。二人と一匹のままでだっていい。新しい家族を迎えたいのならそれもアリだ。彼女との子供なら絶対に愛せる自信がある。





「おやすみ。いい夢を。」





これだけは許してね。そう心の中で呟きながら、彼女の額にキスをする。小さなリップ音が部屋に響く。蘭はもう一度彼女の頭を撫でてから、今度こそ彼女の寝室を後にした。

・49 作者より→←・47



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (436 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2166人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

Liezabeth Gillies(プロフ) - 中高生が書くような文章ではなくしっかりとした文才があり安心して作品を楽しめます。ところで、どのような結末になるのでしょうか。着地点はどこに、、? (2021年12月1日 1時) (レス) @page43 id: f20a915395 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 面白くて一気読みしました!好き!応援してます! (2021年11月10日 19時) (レス) @page22 id: 1f03340a86 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - すみません、20話の『頭のおかしい練習に囲まれて』は『頭のおかしい連中に囲まれて』の間違いではないですか? (2021年11月8日 3時) (レス) @page20 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
まるきち(プロフ) - 文章力ものすごいのに、ギャグ線強くて好きです♡前編からずっと読んでます!花蛸花さんのペースで頑張ってください💪 (2021年11月7日 12時) (レス) @page21 id: 4a45715550 (このIDを非表示/違反報告)
結菜 - 好き、、なんで、こんな、作品作れるの??え?なんでこんなに、文才あるの?え?神様って不公平だね。てか、神様っているのかな?、、、あ、挨拶が遅れてすみません!結菜です!花蛸花さんの作品好きです!面白すぎて一気見しました!!! (2021年11月4日 18時) (レス) @page18 id: 05b53aed2d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:花蛸花 | 作成日時:2021年10月30日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。