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「ダメに決まってんじゃん。いないよ」
嫌でも震える自分の声に狼狽する。
「…そうか、そうだよな」
まるで他人事のように呟く清太に、殺意が湧いた。
「許してもらおうとか、そんな甘ったれた思いはない。今ここでお前に刺されたっていいと思ってるよ。一生償って背負っていく覚悟はできてるから」
許せるはずがない。私の人生は大きく狂わされたのだから。
「先週、少年院から抜けたんだ。行くところもなくて家族もどこに行ったかもわかんねえし。あの時の友達に連絡入れたらあの後引っ越したって聞いてさ。当たり前だよな、俺みたいな奴が帰るところなんてあるわけねんだ」
頭を垂れたその姿はあの頃とは違って小さく見えた。
「けど、お前はまだいるって知っていてもたっても居られなかった。勝手な事言ってんのはわかってるよ、でもどうしても会いたかったんだ」
清太は頭を抱えて肩を震わせた。泣いているのだろう。私はそれまで言葉を発する事なく、清太の声を、懺悔を聞いていた。
しばらくして清太は涙を拭い、私に笑顔を見せる。
「俺は、この街を出て行く。もう顔を合わすこともない。ごめんな、俺は結局何もできずにお前から逃げるんだ」
成す術もない。誰も何もできないのだ。
「A」
「…なに」
「こっちに来てよ」
「どうして?」
「最後に、抱きしめたい」
そういうと清太は、両手を広げてきた。
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作者名:ミーコ | 作成日時:2017年9月30日 14時