下手な尾行 ページ2
誰かから付けられている。
とは思っていたものの、余りにお粗末な尾行だから、特に気に留めては居なかった。
しかし、路地裏に入っても尚走って追い掛けて来るので、歩調は次第に速くなった。
「待って、中也!」
名前を呼ばれた。
尾行…いや、違う。
その純粋な喜びの声で呼ばれた時にそう思った。
俺の住む裏社会ではそうそう聞けない様なその純粋な声。
交わる事の無い線と線。
それが交わる音がした。
振り向くと、其処には一人の少女が居た。
齢は俺と同じくらいだろうか。
其れなら少女は少し語弊か。
あどけない顔立ち。
ポニーテールに結われた黒っぽい…でも少し茶色寄りのサラサラな髪の毛。
白色の滑らかな肌。
ふっくらとしたその紅い唇が動いた。
「わたしはA。久し振りだね、中也君」
くしゃりと笑ったA。
何となく…懐かしい様なその笑顔。
腹の奥で何かが疼いた。
「お…おう…」
でも、分からない。
彼女は誰なのか──
何故俺の名を知っているのか──
俺の何を知り、何を知らず、何故俺に会い
──笑うのか。
──喜ぶのか。
俺は彼女に──
ふと気付くと、Aが悲しそうな表情をして居た。
俺が、困惑した表情をして居たからだ。
「悪ィ」
Aに謝ったら、吐かれた。
「おい、大丈夫か?」
走って帰るAが見えなくなると、俺は片付けを始めた。
其れにしても…
「Aか…」
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爽斗 - せれな さん» 本当ですか!!ありがとうございます!!頑張ります!! (2021年8月27日 22時) (レス) id: 5b5562e114 (このIDを非表示/違反報告)
せれな - 本当に面白いです これからも応援しています! (2021年8月25日 20時) (レス) id: 6fed7b85b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:爽斗 | 作成日時:2021年7月15日 2時