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『ね、太陽が昇ったよ。起きて早く準備して』
夕闇燈の声で、目を覚ます。そこはまだ、夢の中だ。
やだよ、まだ眠い。そう心の中で言えば、夕闇燈に伝わる。そうすると、不機嫌な声が聞こえてきた。
『今日が約束の日だったはずよ。早くして』
私は仕方なく温まっていたベッドから出る。それだけで、夕闇燈が少し喜んだのが伝わってきて。少しだけ顔を顰めた。
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「こんな朝早くに珍しいな、研磨。何かあったのか?」
羽織っていた上着のポケットに手を突っ込んで振り返りながら黒尾鉄朗は言った。
幼い頃よく来た、公園に孤爪研磨に呼ばれてきたのだ。振り返ると真剣そうな顔をしている研磨が目に入る。
あまり普段表情は変わらないのだが、真剣な顔だけは、なんとなく分かるらしい。
そして、その時は黒尾鉄朗にとって大事な話である場合が多い。
「うん、クロにとってすごい大事な話」
落ち着いて聞いて、そう言って一旦口を閉じる。それからまた口を開いて、少しだけ息を吸った。
「今日、この国がなくなって明日くらいには世界もなくなるよ」
「……は」
かも、ではない断定した言い方。しかしそれは彼のチート的な個人魔法のせいだ。予知能力。それを便利だと言う人もいれば何もかも分かってしまって不気味だと言う者もいる。
それを聞いた黒尾も、それを分かっているからか嘘だ、と思っていないように言う。クエスチョンマークなどない、本気にした返事だ。
が。
「いや、お前の言うことだから信じるけど、それの何が俺に関係あるんだ?」
それが1番の疑問だ。今の話だけでは何の関係もないように思える。
「世界がなくなる事にクロが関係してるんじゃないよ」
察しのいい人なら分かったかもしれないが、何も知らずに混乱している黒尾には全くもってその言葉の真意が分からなかった。
「じゃあ、何に……」
「蒼海A」
そこで、やっとその名前が出た。夕闇燈に取り憑かれ呪われた少女の名前が。
「Aが世界を滅ぼすって?有り得る訳が……」
「クロ」
言いかけたところで、研磨が遮る。まるでその言葉を予想していたかのように。
「クロは分かるでしょ。おれは冗談で言ってるんじゃない。……クロには酷な話だったかもね」
台本を読むかのように言って、研磨は立ち去っていく。
少し冷たい風が、独り残された黒尾鉄朗を嘲笑うかのように吹きすぎていった。
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作者名:凛花 | 作成日時:2017年1月9日 16時