72話 ページ37
「せんせー見てー」
下から声が聞こえ、2人でその声の方に目を向ける。何かを持っており、僕は膝を曲げてその言葉の続きを待った。きらきらとする目に当てられ、純粋さに目が眩みそうだ。
「大きいしつやつやだよ!」
ぐいっと目の前に出されたのは堅果もといどんぐりであった。両手いっぱいに集めたどんぐりを僕らに見せ、満足気に笑う姿に無邪気さを感じる。
「本当ですね、綺麗などんぐりです。どこで見つけたんですか?」
「あっちにいっぱいあったよ」
「あとでどんぐりゴマでも作ろうか」
「うん!先生たちにもあげるね」
手のひらにちょこんと乗せられたどんぐりを得意げに見たあと、また拾いに向かったのか駆けて行ってしまった。
指先でもらったどんぐりを摘み眺めれば、隣から視線を感じる。どこか既視感を感じるのは気のせいでないだろう。
「…今度はなに」
袂にどんぐりをしまいその視線を交えれば、溶けるような甘い顔を向けられる。するりと頬を撫でられ、僕の跳ねる心臓を知ってか知らずか松陽は目元を細めて言う。
「どうしてAが口にするだけで何でも可愛らしく感じるのでしょうね」
きっと先程と同じで、堅果をどんぐりと呼んだことを言っている。それだけのことなのに「可愛い」と幸せそうにするこの男はどれだけ甘く溶かせば気が済むのだろう。きゅーっと鳴る心臓に気づかれないよう、僕は少し顔を背けた。
「……盲目だからじゃねーの」
「君以外見えなくて幸せです」
思わぬ反撃に僕はそのまま膝に顔を伏せ「ばか」と呟くしかなかった。こんな顔、子供たちにも勿論松陽にも見せられない。
そんな僕が可笑しかったのか隣から控えめな笑い声が聞こえる。僕はその声の主にどすっと拳を当てた。楽しそうに「痛いですよ」とこれまた笑いながら言われ、僕はそのまま拳をぐりぐりと押し付けた。
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作者名:月光 | 作成日時:2018年8月4日 0時