58話 ページ23
優しく微笑って身体をこちらに預けるように倒れたAを受け止める。子供達は狼狽えているようであったが、私は何故か1周回って冷静であった。心配が第1ではあるが、その中に呆れというか「やれやれ」という感情も存在し、自己犠牲精神の激しさに頭を悩ませた。
彼女も昨日濡れたから風邪を引いてしまったのだろう。だから私は言ったのに。小太郎に布団を寝室に出してくるよう頼んでAを抱きかかえる。心配そうな銀時と晋助に「大丈夫ですよ」と微笑って、私よりも随分と軽くて細い身体を運び出した。まだ私は頼りないらしい。
閉じている瞼に光が射す。喉の乾きを感じて身体を起こせば、ふと濡れた手拭いが落ちてきて、何だろうか?と首を傾げた。それはすでに冷たさを失っていて、随分前に僕の額に置かれてあったのかと考える。
記憶をたどれば僕は自己暗示の類で風邪を押し込めて、結果ぶっ倒れたらしい。その後は覚えていないが、きっと松陽が運んでくれたのだろう。
取り敢えず喉が乾いた。そう思って立ち上がり着物を直していた時だ、襖が開いて松陽と目が合う。
「何で脱い…高熱で気が動転しているんですね!?大丈夫ですか!?」
「落ち着け僕は正気だ。飲み物を取りに行こうとして着崩れを直していただけだ」
説明をしても松陽は僕を部屋から出さないらしい。自分が取りに行くと言って僕を布団にしまい、駆けて行ってしまった。
「はい、お茶です。飲めますか?飲ませましょうか?」
「ありがとう。だが赤子扱いするな」
オロオロとしながら僕がお茶を喉に通す様子を見ている松陽は僕をなんだと思っているのだろうか。確かに、無自覚だったとはいえ無理をしていたのは僕が悪い。悪いのだが、そんなに過保護にならなくてもいいだろう。そして極めつけはこれだ。
「ご飯食べられますか?お粥ありますけど。『あーん』しましょうね」
ウキウキと用意をする松陽。以前銀時が病人には「あーん」なるものをすると言っていたが、それを先に実行したのは僕だが、いささか恥ずかしい。
「ちゃんと食べないと治りませんよ」
「もう治った」
「ふいってしないで可愛い…じゃなくて、風邪嘗めたら死にますよ」
「不死者が何言っているんだ」
「ほら、つべこべ言わず食べる!はい、あーん」
根負けして、ゆっくりと口を開けば程よく冷めた粥が口に入る
「美味しいですか?」
「うん」
「よかった。まだありますからね」
「うん」
「照れてます?」
「……」
「可愛いですね」
「…うるせぇ」
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作者名:月光 | 作成日時:2018年8月4日 0時