帰宅したら家に反社がおりまして。【三途春千夜】

44 確信 ページ45

月日はあっという間に過ぎて、臨月。お腹の子どもも順調に育っており、あとは陣痛がいつ来ても良いように待ち構えているだけの状態になった。

予定日は来週。それでも早く産まれて来てしまう場合もあるらしく、出掛ける時は常に母子手帳を鞄の中に入れるようにしていた。

堕ろす事を辞めたと医師に伝えた時は、私以上に喜んでくれて一緒に頑張っていこうと励ましの言葉をくれた。

傍にいる春くんは前よりも私を大事にしてくれていて、ちょっとの事でも気づいてやってくれるのだ。

家事くらいなら出来るのに、料理が乗っている皿を運ぼうとすると「危ないから辞めろ」と手から皿を奪い取るし、洗濯かごを持とうとすると「重たいから辞めとけ」と止められる始末。

愛されてる事が伝わる反面、ちょっと過保護すぎるような気もしていた。

少しの買い物に出るだけでもヒヤヒヤすると言われるが、近くの薬局へ行くだけだと押し切って買い物に出ていた。

薬局の中へと入ろうと自動ドアの前に来ると、私よりも先に自動ドアから出てきた男が私に勢いよくぶつかってくる。

「っ……！」

男の腕がお腹に当たり、痛みを伴う。お腹を抑えて立ち止まり、痛みが治まるまで動けずにいた。

男が出てから数秒後には、何人かの店員が出てきて男が走り去っていく方向へと向かっていく。

防犯ブザーが鳴り響いている辺り、万引きでもしたのだろうと予想する。

お腹の痛みが少し和らいで来た為、やっとの思いで歩けると安堵して1歩踏み出すと、妙な違和感。

足を地につけると『ぴちゃ、』と嫌な水音が聞こえる。雨は降っていないし、水溜まりなどあるはずないのだ。

下を見ると、自分の足から水のようなものが流れ落ちてきている。

破水していることに気づくまでそんなに時間がかからなかった。

しかし、こういう時に限って焦ってしまうせいでろくな思考が出来ず、私は流れ落ちていく水をただ眺めることしか出来なかった。

「大丈夫ですか！？救急車！母子手帳あります！？」

駆け寄ってくれた見知らぬ叔母さんに声をかけられてようやっと冷静になってハッと我に返る。

「鞄の中にあります……。」

すぐに救急車を呼んでくれ、此処へ辿り着くまでの間、私は踏ん張る事くらいしかできる事はなかった。

そのタイミングで恐らく陣痛も始まり、もうすぐ生まれることを確信してしまう。

春くんに連絡したいけど、下手に動く事も出来なければスマホを持つ手が震えてしまいそうで何も出来なかった。

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