37 金輪際 ページ38
「……俺だったら、気まずくなってても一言欲しい。」
竜胆さんは、そうかもしれない。でも、春くんはどうか分からないじゃない。私がそれを告げたとして「勝手にしろ」なんて言われてしまったらたまったものじゃない。
とりあえず、次の検診は来週の水曜日。その日に、ちゃんと担当医に伝えて、堕ろそう。そしたら……本当の意味で普通の日常へ戻ろう。
今までと変わらず仕事に打ち込んで、また貯金を沢山貯めて……今度は燃やされてしまわないように、と願いながら自分のマイホームを購入しよう。
元通りの、刺激の少ない生活に戻るだけ。ただ、それだけだ。危ない綱渡りはもう終わりだ。春くんだったから付き合っていけただけで、反社の人間と付き合うなんて今思えば相当な大冒険。
この子を堕ろしたら、春くんの連絡先もブロック削除して……勿論、竜胆さんとも繋がりを絶って、完全に反社の人たちとの関係を断ち切るつもりだ。
真っ当に生きていた私が、あの時に家を燃やされていなかったら決して出会う事のなかった人だ。その事実は消えないし、完全になかった事には出来ない。
でも……これでいいんだ。私の判断は間違っていない。いつも私の判断で道を間違えた事なんて殆どなかったし。
「もう、決めたの。この子を堕ろしたら……
何て答えていいのか言葉を選んでいるらしく、何処か苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。
「まぁ……元々俺等みたいな人種と関わるはずじゃなかったもんな。」
苦笑を浮かべたまま私に向かって投げた言葉。逆を言えば、彼等だって本来ならば私と関わるはずじゃなかった。
彼等に出会う前に戻るだけだ。それ以外は何も変わらない。随分と賑やかだった生活だったけれど、それもただの悪夢だった。そう思えば、すぐにまた普通の日常に溶け込んで忙しくて……春くんの事もいつかは忘れられる。
「そうだよ。今が普通じゃなかったの。」
自分にも、ちゃんと言い聞かせるの。春くんと居る生活が当たり前なんじゃない。だって、彼は普通の会社員とは違う。常に死と隣り合わせに生きているような人。どちらにせよ、先立たれたら置いてけぼりになってしまう。
だったら……私1人で孤独に生きていった方がずっとずっと傷つかないで済む。
「……。」
黙りこくってしまった竜胆さんと私。暫くの間、続いた沈黙もピリオドを打たれ、カフェを後にし、賑やかな街で互いに背を向けて消えていった。
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さきな(プロフ) - 漆Pさん» 長らくお待たせさせてしまい申し訳ありませんでした!(土下座)こちらの小説でもコメント頂けて嬉しいです✨あと少しで完結なので頑張ります♡ありがとうございます! (2022年9月24日 15時) (レス) id: 1d6ef99bbb (このIDを非表示/違反報告)
漆P(プロフ) - 更新再開おめでとうございます(*´ω`*)ずっと待ってたかいがありました!無理せずに更新頑張ってください!応援してます! (2022年9月24日 13時) (レス) @page47 id: 436ede0cdd (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - モックさん» コメントありがとうございます✨続き更新致しました!ぜひ読んで下さい!完結までもう少しのところまで来ておりますので、頑張ります!ありがとうございます! (2022年9月24日 11時) (レス) id: 1d6ef99bbb (このIDを非表示/違反報告)
モック - めちゃくちゃいいところでとまってる〜!! 続きちょ〜楽しみ☆ 春くんがイケメンすぎてにやにやがとまりませんwww 更新頑張ってください!応援してます♪ (2022年9月24日 10時) (レス) @page46 id: 17f5259717 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - ちょんちょんさん» コメントありがとうございます✨更新していきますので、最後まで読んでくださったら幸いです! (2022年9月24日 0時) (レス) id: 1d6ef99bbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2022年2月20日 0時