帰宅したら家に反社がおりまして。【三途春千夜】

21 甘えたくなる後ろ姿 ページ22

ぐっすり眠った次の日の朝。頭はすっきりとしたような気がする。

でも、身体の奥に潜んでいる倦怠感に勝てず、なかなかベッドから起き上がる事が出来ない。仕事があるのに、仕事のことなんてどうでもいい、とすら思ってしまうくらいだ。

急に休んだら会社にも迷惑がかかるのも頭の中ではきちんと理解しているから、会社には行くつもりでのんびりと起き上がった。

まず、お風呂に入って気持ちを切り替えようと、バスタオルを持って浴室へ向かった。メイクも落とさずに寝てしまったせいで昨日より微かに肌がカサついているような気がする。

20代半ばにかけて、物凄く気にしていたのに、昨日は本当にそれどころじゃなくて寝てしまった。

……春くんは、ちゃんと夜ご飯食べたかな。私がいないと、適当なものでいいとちゃんと食べないことがあるから、心配だ。

もし適当に食べてたら体に良くないから、朝ごはんはちゃんと作ってあげないと。

髪を洗っている途中。視界がぐるぐると回っているような感覚に襲われて、思わず髪を洗っていた手を止めてしまう。

のぼせている訳ではないけれど、のぼせた時と同じような感覚の目眩。

ゆっくりと呼吸をして、視界が通常に戻ってから再び髪を洗い、出来るだけ早く浴室から出るように意識を向けた。

ザァーっと勢いよく流れてくるシャワーの水音も妙に煩わしく思えてしまう。

そこまで神経質な方ではなかったけれど、こんなに神経質な自分が疲れる。ここ数日続くようなら、病院に行くか有給取って数日休ませてもらおうかな。

浴室を出て、髪の毛を先に乾かした。メイクは二の次で先にご飯を作るつもりだ。

髪が乾き、急いでキッチンに行くと、既に春くんがキッチンに立って何かを作ってくれていた。

ちょっと焦げたような匂いと甘い匂いが混じり、柄にもなくエプロンをしている後ろ姿。……彼の姿を見て、微かに気が紛れる。

前に、料理を作っていると春くんが後ろからぎゅっとして来た事があったけれど、確かに……ぎゅってしたくなる。

私が後ろにいる事にまだ気づいていない彼の背にゆっくりと向かって、後ろからぎゅって、してみる。

「……どうした？もう体調大丈夫か？」

「うん。昨日よりは良いかな。」

「無理すんなよ。まだ体調悪かったら、仕事休め。」

私が休めない性格なのも知ったうえで、そんな優しい言葉をくれるから、それだけで嬉しくなってしまう。

本当に私ってチョロい女だ。

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