帰宅したら家に反社がおりまして。【三途春千夜】

13 傷 ページ14

案の定、昨夜は浴室でのぼせてしまい、意識が朦朧としている中で彼の海よりも深い愛情表現が続いた。

そのせいで、起こした体はめちゃくちゃに痛い。綺麗な顔貌の彼は呑気にすやすやと今も夢の中にいる様子。私はこんなにも体が怠いのに……。

憎らしくなってきて、呑気に寝ている彼の頬を軽く抓ってみる。けれど、気持ちよさそうに眠り続けたままだ。

仕事中は絶対にこんな無防備な姿を見せないでしょ、と心の中で毒づいてみる。でも……私が隣にいるから無防備で居てくれるなら、この体の怠さも痛みも、全部許せてしまう。

結局私は絆されやすくて春くん限定でチョロい女なのだと更に自覚する。

長い睫毛に、サラりと艶のあるピンク色の髪。神様が生み出した造形美だと言っても大袈裟ではないと思う。

でも、その綺麗な顔に大きく残っている口元の傷跡。どうして、こんな大きな傷が出来たのか。気になるけれど、言いたくない事かもしれないと思うと、聞くに聞けない。

口元の傷を指先でなぞるように触れると、ピクッと反応し、表情が歪んでいく。

私の腕を意識がはっきりとしないまま、強く掴んだ。その力が強くなっていくにつれて、痛みが増していく。

「痛っ……。」

私の声にハッとしたのか、大きく目を開けて大きな振りで起き上がった。

「悪い……、大丈夫か？」

「うん、大丈夫……。ごめんね、私がベタベタ触っちゃったから。」

「お前のせいじゃねえよ。」

口元の傷は触れられたくなかったようだ。……今度から触らないようにしよう。

「寝てる時じゃなくて、起きてる時にベタベタ触れよ。」

暗い空気が流れないようにか、ニィッと思い切り口角をあげて冗談っぽく言う春くん。

「それはちょっと……。」

「あ？何でだよ。」

コロコロと変わっていく表情を見て、相変わらず1人で忙しい人だと思った。見てて飽きないし、一緒にいて楽しいんだけど。

「……恥ずかしいでしょ。」

「は？触る以上に恥ずかしい事散々してんのに、何カマトトぶってんだよ？」

カマトトぶっているなんて人聞きが悪い。恥ずかしい事してるっていうか、春くんが主にしてるだけなのでは？

それ言ったら、何倍にも物理的に返り討ちに合うのも理解出来ているので言葉は呑み込んでおく。

「……春くん、私お腹すいちゃった。」

朝ごはんをまだ食べていない私たち。2人で朝食を作って食べたいな、とさりげなく伝えてみる。

私は些細な幸せに小さな亀裂が入り始めている事をまだ気づいてなかった。

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