先に行くあなたへ【黒尾鉄朗】 (ページ31)

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「あぁ、そういえば…でも結局会えなくて、妄想だったんじゃねってからかったっけ。」

「そう！その子！

妄想じゃないんだよ！ちゃんといたの！」

「へえ……再会って、すげえな。」

「でしょ！！俺も会えると思ってなかったよ。」

そう言った徹君の目は少し寂しげだった。

「あーなら…積もる話、とかもあんだろ？
俺先行ってるから。」

岩泉さんは徹君を人目見ると私に目を向けた。

「ほんと悪かったな、今日は。

…えーっと、…青城の岩泉一です。よろしく。」

つん、と控えめに手を差し伸べてきた。

顔が少し赤い。

「はい！音駒高校の志田 Aです。よろしく。」

差し伸べられた手をぎゅっと握り返したら

にか、と眩しい笑顔で、おう！と言われた。

「じゃあ…あ、そうだ志田さん耳貸して。」

え？

戸惑いながらも岩泉さんの近くに耳を寄せる。

「及川、あの頃お前の話ばっかしてたよ。今でもたまに。

…悪いやつじゃねーから、よろしくな。」

こっそりと言われた言葉にびっくりして、少し固まってしまった。

「ちょっと！？岩ちゃん何言ったんだよ！」

「へへ、秘密。じゃあクソ川遅れんなよー。」

「分かってるよ！あと10分ね！！」

タタタッと岩泉さんは体育館へと駆けていった。速い。

「あーっと、改めまして？

…久しぶり、Aちゃん。」

「ふふ、久しぶり。徹君。」

「Aちゃん、すごく変わったね。明るくなった。俺、嬉しいよ。」

「うん。でも、徹君のおかげだよ。あの時、腐らずに前を向けたから…。」

「…そっか。いやー、それにしてもAちゃんがバレー部のマネージャーとはね。信じられない。

というより、まさか部活に入ってるとは…。」

ほんとにびっくり！という顔で私をまじまじと見る徹君には少し苦笑した。

「うん、前の私ならそうだったかも。

でも、黒…今の音駒の主将と出会ってから捉え方が変わってね…。」

「ふーん。他の男のことなんて聞きたく無いけど…。」

「えっごめん？はは。」

謝って笑うと、ジト目を向けられた。

「Aちゃん、……俺、あの時すごく悲しかったよ。突然いなくなっちゃって…。」

「うん、ごめんね。」

彼の手をぎゅっと握った。

「私、徹君にあの時出会えて、本当に良かったよ。

ありがとう。」

これが、私が伝えたかった全てだ。