短編小説 /雨降って地固まる/ ページ25
――――『腹にキス』
「もう、アンタなんて知らない！！」
温厚な彼女も、我慢の限界だった。
「大声上げるなよ、ホラ……」
喧嘩の原因はいつもの通り些細なことだった。塵も積もれば山となる、彼女の堪忍袋の緒が切れた。
「私なんてもうどうでもいいんでしょ！職場にはどうせ私なんかより可愛い子がいるんでしょ……」
彼女はすとんとソファーに腰を下ろした。それは、同棲するときに二人で買った、ベージュ色の可愛らしいソファだった。
ギュッと膝の上で掌を握りしめる。深い緋色のスカートにぐしゃりと皺が寄った。
「ただの食事会だよ。仕事上どうしても必要なんだって」
「言い訳は要らない……」
彼女の目には薄っすらと涙が浮かぶ。
勿論、彼の言うことに間違いはない。しかし、今の彼女にその言葉を信じることは難しかった。
「もう、終わりなの…？」
「……何が？」
「私たち、これで終わりなの？」
訊ねる彼女に、彼は真剣な目をして答える。
「終わらせないよ」
彼女の目から一筋の雫が零れ落ちる。
「ねぇ、好きって気持ちだけじゃ駄目なのかな？」
「………」
「僕は君が好きだし、君は僕が好き。それじゃ駄目？」
彼はそういうと黙りこむ彼女をぎゅっと抱き締めた。
「好きだよ。大好きだ。食事会も減らす。ちゃんと断る。だから、終わりだなんて言わないで」
「………馬鹿」
彼女はそう呟くと彼の肩に顔を埋めた。
彼はそのまま、すすっと体勢を低くして、彼女のその柔らかな腹に口付けを落とした。
「なッ、何するの！？くすぐったい……からッ」
「はは、雨降って地固まるだね」
抵抗していた彼女も諦めたのか、顔を真っ赤にしながら彼の首に腕を回し、ぎゅっと抱き付く。
「ごめんね。寂しい思いをさせた」
「……別に。ただ、アンタが本気で浮気してたなら、今度こそ殺してやろうかと思っただけ」
「ふふ、随分と熱烈だ」
「本気だったのよ？私。…次にまたこんなことをしたら、命は無いと思ってなさい」
彼女はまたいつものつんとした態度に戻り、見下すように鼻で笑ってみせる。
「覚えておくよ」
彼の言葉に満足気に頬を緩ませ、少し目を伏せて、視線を交わらせないまま「大好き」と一言だけ呟いた。
「僕も、大好きだよ」
――――『回帰』
短編小説 /幸せ？/→←短編小説 /賞賛の言葉なんて、何一つかけてくれなかった癖に/
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
ラッキーアイテム
革ベルト
ラッキーカラー
あずきいろ
ラッキーナンバー
8
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 546人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
容姿端麗に生まれ変わり隊(プロフ) - 『頬』と『額』は親しみ感が溢れてていいと思いました(o^−^o) (2019年4月29日 13時) (
レス) id: 26de7c6d79 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - ちなみに頬へのキスは海外だと挨拶に近いですね。私も海外に住んでいるので親しい人とは頬にキスします。 (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - 月が綺麗ですねから来ました！！鼻梁は鼻筋の事ですよ。面白かったです！こんなことをしてくれる彼氏が欲しいです。続編も楽しみにしています！頑張ってくださいね！！ (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
零ーﾚｲー(プロフ) - とりあえず完結しました〜！皆さま本当にお付き合いありがとうございました<(_ _)>近々続編を作るつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします！ (2017年2月11日 23時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
零ーﾚｲー(プロフ) - のわあああ、意味が意味なのでヤンデレ続きになって申し訳ないです……全然純愛じゃない…キスの格言に相応しくない…… (2017年1月31日 20時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：零ーﾚｲー | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時：2016年8月31日 18時
