story91 ページ43
フェイタンは、じっとAを見ていた。子どもたちが連れていかれるまでその場を動こうとしない、彼女を。強い独占欲を、彼にしてはかなりの忍耐でねじ伏せて。
本当ならば、今すぐこの女を独り占めにして、監 禁でもしてやりたい気持ちを抑えて。それもこれもすべては、Aを愛するがゆえに。
「……A」
ぽつりと落とされた名前は、彼女の鼓膜を震わせたのだろう。視線だけをちらりと流してきたAを、切れ長の瞳でとらえて。
「Aという名前を忘れなかたのは、何故ね？」
「…それ、私が逆に聞きたいようなことなんだけどね」
唐突な質問に、彼女は苦笑を浮かべた。視線をそらし、空を見上げる。空気のよどんだ、くすんだ空を。
「…たぶん、私の中で一番大事だったから…じゃないかな」
「たぶん？」
「記憶がないんだもの。ほかに言いようがないよ。でもそうだと、私は思う。ほかの何を失っても……名前だけは、私が私である何よりの証拠になる、そう今は思うから」
「今は？」
「マース組にいた時は、違った。名前は単なる符牒だったし、呼ばれることがうれしいとも思わなかったし…。でも今は違う」
視線を戻した彼女が、フェイタンの瞳をまっすぐに見つめた。
「今は、みんなに名前を呼ばれるのがうれしい。記憶がなくても私を仲間と認めてくれているようで、そのことにドキドキするしうれしいし」
昔と同じような、太陽のような笑顔を浮かべて。
「ただ私は、それだけのことがとてもうれしい」
「……昔からAは、欲がないよ。まるで盗賊とは思えないくらいね」
「そうだったの？」
「あぁ。お宝を奪う時も、分け前を分ける時も、何かが欲しいなんて言たことはほとんどないね。よほど気に入たものだたら、一応口には出す…くらいのものだたよ」
「だったらそれは、昔の私が満たされていた…ってことじゃないかな」
クスクスと笑うAに手を伸ばす。いつものように抱きしめるのではなく、ただ指を絡め合わせるだけにとどめたのは気分だ。指先に力をぎゅっと入れれば、同じような力がそれに応えてくる。
「…今のAは、満たされているか？」
「…うん、満たされているよ」
(少なくとも、こうしている時は)
(ワタシも満たされているよ)
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累 - とても面白いです！つづき楽しみにまってます！頑張ってください、応援してます！ (2020年4月6日 12時) (
レス) id: 7d54cdb775 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 由宇さん» コメントありがとうございます！ちょいちょい停止しますが必ず書き上げますので、どうぞよろしくお願いいたします！ (2018年8月26日 14時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - ここっちさん» もうちょいで記憶が！まだわかりません！（←）でも長い目で見ていただければと思います、よろしくお願いします！ (2018年8月26日 14時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - ゆっずーさん» 遅くなりまして申し訳ありません！いつもありがとうございます！これからも頑張りますね！ (2018年8月26日 14時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
由宇 - 面白いです！早く更新停止が終わることを願ってます！頑張ってください！ (2018年8月15日 11時) (レス) id: 06761224f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：灯霧
| 作成日時：2017年7月10日 18時
