story86 ページ38
昼過ぎになって帰ってきたAを、メンバーたちは昼食のサンドイッチとともに迎え入れた。その中には朝になって姿を消したフェイタンの姿もある。
(っ…)
昨日のキスを思い出して目を反らせば、むっとした雰囲気がAまで伝わってきた。
「なんだ、お前ら喧嘩でもしたか?」
「違うって!」
「ならどうしてフェイタンがこんな不機嫌になっているのかしら」
「うるさいよ、パク」
からかう口調で話しかけてくるフィンクスとパクノダの攻撃をさらりとかわしたフェイタンの手には、二つのサンドイッチ。それを一つ、Aに差し出してくる。
「お前の分ね」
「ありがとう」
それを受け取るとき、指先が触れ合った。ドクン、と胸が鼓動を打つ。同時に、まるでアンテナのあっていないテレビを見ているようにかぶる映像があった。小さな男の子が、同じようにサンドイッチを差し出してくれる、そんな映像。
「……」
「なんね。食べないか?」
「…ううん、食べる」
その映像は一瞬で消える。今のは過去の記憶だろうか、それとも記憶を取り戻したいと思い始めたAの願望が作った幻影か。それを振り払うようにサンドイッチにぱくつけば、味気のない味が広がった。
「…これ、塩とか使ってないの?」
「あぁ、せっかくだから味覚にも働きかけてもらおうと思ってね。昔手に入れられた材料で再現してみたんだ」
「なつかしいぜ、この味気のないサンドイッチ。くそまずいんだよなぁ」
「でもこれでも贅沢なほうだよ。下手しなくてもパンが手に入らないってことも多かったしね」
しみじみと言いながらも顔をしかめるフィンクスの横で、フェイタンは無言でサンドイッチを食べている。女性二人はうんうんとうなずきあいながら。クロロは穏やかな笑みを浮かべ。
「どうだい?何か刺激はあるかな?」
「……懐かしいとか、そういう感じはしないわね…。ただ、味気ない」
「はは、そうか。まぁ味気ないのは勘弁してくれ」
苦笑をしながらも言葉の端々に落胆を感じさせる声音に、申し訳なく思う。かれらはAのために時間をとってくれているというのに、Aは記憶のかけらすら出てくる様子がない。しゅんと落ち込んでいたら、ぽんぽんと肩をたたかれた。
「…フィンクス?」
「あまり落ち込むなよ。まだ始めたばっかりだろ」
「…うん、そうだね」
にっと笑う彼の姿に、先ほどと同じような映像が重なった。
(フィン、いつまでAに触てるね)
(もう離れたって!)
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累 - とても面白いです!つづき楽しみにまってます!頑張ってください、応援してます! (2020年4月6日 12時) (レス) id: 7d54cdb775 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 由宇さん» コメントありがとうございます!ちょいちょい停止しますが必ず書き上げますので、どうぞよろしくお願いいたします! (2018年8月26日 14時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - ここっちさん» もうちょいで記憶が!まだわかりません!(←)でも長い目で見ていただければと思います、よろしくお願いします! (2018年8月26日 14時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - ゆっずーさん» 遅くなりまして申し訳ありません!いつもありがとうございます!これからも頑張りますね! (2018年8月26日 14時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
由宇 - 面白いです!早く更新停止が終わることを願ってます!頑張ってください! (2018年8月15日 11時) (レス) id: 06761224f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2017年7月10日 18時