私は師匠を信じない【HUNTER × HUNTER】

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会場は耳が割れそうなくらいうるさい筈なのに、ゴンがソレを始めた途端少女の耳にはもう何も聞こえて来なかった。

ゴンの、ただただ純粋で無垢な『強さへの渇望』。

目で見るのでは無く気配で独楽を感じ取り、そしてそれに反応できる反射神経。

まだ未熟で、未熟だからこその命懸けの修行。

(あぁ、ほんとお前って奴は…！！)

ぎゅっと握り締める拳の意味は、友への賞賛か。

はたまた、戦闘者としての武者震いか。

あるいは、娯楽を見つけた狂人の歓喜故か。


＊


「そういえば、Aは？」

見事試合に負け全身ボロボロで、先程目の前の友達と師範にしこたま怒られたゴン。小指につけられた誓いの糸をじっと眺めてから、思い出した様に姿の見えない少女の居場所を聞く。

キルアはその問にむっつりした顔で口を開いた。

「ヌケガケ。」
「ぬけ…？ あ、そういうこと」
「そ。試合終わった途端自分の部屋に戻ったから、多分最終試験前みたいに新技作ってる。」
「また無茶してなきゃいいけど」
「無茶しねえ訳ないだろ。ったく、どいつもこいつも！」
「…メンボクないデス。」

思わぬ形で飛び火し、縮こまるゴン。腹を立てながらチョコロボくんを開封したキルアを見て、ゴンは再び口を開く。

「…俺最初、Aは俺と似てると思ってたんだ」
「なんだその過去形。今でも充分似てるぞ」
「そう？えへへ」
「褒めてねえからな。」
「あイデっ！」

パチンコ玉の様にチョコロボくんが額にぶち当たる。珍しい、キルアがお菓子を分け与えるなんて！ゴンは渡し方よりその事実にいたく感動した。

「で、なんだ？」
「あ、そうそう。でね、やっぱりAはヒソカに似てるかなって思うんだ。最近」
「…それは、まあ、俺も思う。」
「でしょ？なんていうか…楽しまれてる？ワクワクされてる？って感じ」
「…言いたい事は何となくわかる。」

コロコロとチョコロボくんを口の中で転がし、甘ったるいくらいの甘さが広がる。それを飲み込んで、キラリとキルアに視線を合わせた。

「ヒソカからの視線は苦手だけど、Aからそうやって視られるのは」

「俄然、燃えるよね」

…アイツとの実力差は歴然。念もろくに扱えず、現在進行形で修行を禁止されて遅れをとりつつすらある。

「…それでいくと、お前もヒソカに似てるって事になるな」
「えぇ！？それはちょっと…」

…だというのに、なんだその真っ直ぐな目は。

(……俺もわかるよ)

こんなに応えてやりたい期待は、なかなか無いよな。

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