私は師匠を信じない【HUNTER × HUNTER】

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現在の時刻は21時02分。ゴン達が行ってしまってから40分が経過した。

「…で、人の脳を貫いた感想は？」
「…サイアクですよ。感想も、あんたの質問の内容も。」

冷たい廊下には二人きり。大人しく膝の中に収まる少女はそっと目を伏せた。

「…貫いたのは私の硬化された血液であって、私が直接触れた訳じゃない。けど、残ってるんです。」
「目から入って、中の物に触れて、…骨を貫通した時の感触が、…この手に」

少女はそっと口元を抑える。涙も吐き気も無かったが、何故か抑えずにはいられなかった。

「…イルミの事は苦手だったけど、嫌いじゃ無かった。…いや、最終試験からは大っ嫌いでしたけど」
「でも恩はあった。念の基礎も教えて貰えたし、色んな知識も貰った。」

「…それに、あいつだって過去に色々あった。」

つんと鼻先が痒くなる。涙は出ない。ダメだ、前に進むしかないとわかっているのに。

「アイツだって人間だった。人を愛せる奴だった。」

イルミの『愛した人』を模して、私はイルミを追い詰めた。

「…なんで、」
「なんであんな酷い事したんだろ」

三角に折った足に顔を埋める。膝小僧がじんわりと何かで濡れた。

「…一時の感情に身を任せた結果だよ♢」

ヒソカは少女の項を見つめ、そっと触れる。針を抜いた時に出来た傷は跡形も無くなっていた。

「けれど、それでいい♧」

うずくまる少女の顔をぐいと上げ、目を合わせる。師匠の瞳の奥に自身の顔が間抜けに映った。

「イルミの死を呑み込んで糧としろ。ボクのおもちゃを1つ壊したんだ。今更逃げ出すのはナンセンスさ♤」
「もし万が一、『もう人を殺すのなんて懲り懲りだ』なんて言ってみなよ、」

「それはキミが青い果実のまま中から虫に喰われるのと同義。一生ボクに勝てないまま、キミは死ぬ事になる。」

ギッ、と少女の目尻に爪を立てるヒソカ。少女は歯を食いしばって一呼吸置いてから、口を開いた。

「もう人を殺すのなんて、懲り懲りだ」
「こんな思いはもう二度とごめんだ。私はもう誰も殺めない。護るためにこの拳を振るう。」

「だけど、」

「あんたは絶対私が殺す」

残りの涙がころりと流れ落ちて、洗われた様にその金がきらりと光る。

「明確な理由なんて無い。使命感でもない。」

「けど、この役目は誰にも譲れない。だから、あんただけは私が殺す。」

…矛盾している。いいや違うね、これは唯一と言った方が正しい。

彼女の中で唯一ボクだけが、特別な人(殺したい相手)。

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