家入硝子 ページ24
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高専附属の社宅で荷物を片付ける。
五条悟と夏油傑が手伝うと言ってきたが、ふたりと会話する余裕がなかったので丁寧に断った。
それに、特級術師と教師を両立している彼らのことだ。
とても忙しいに決まっているのに、こんな些事に付き合わせることなんて出来ない。
と、思っていたのだが。
「中、いい?」
モニター越しで、家入硝子がそう言葉を発する。
どうしていいのか分からず、暫く動けないでいると、もう一度チャイムが鳴った。
一体どうして。
兎に角、扉を開けないといけない雰囲気みたいだ。
(…あ。…いや、いいか)
どうせ、そのうちバレる事だ。
部屋着のままで少し恥ずかしいけれど、玄関の扉を開ける。
大人になった家入硝子がAの事を見つめ、立っている。
「ぁ、え…A……」
「…お久しぶり、です。家入さん」
驚いた顔をしていた。そして次に、その瞳に涙の膜を張って、唇を噛み締める。
「……A、だよね」
「…。……はい」
昼間の五条悟も夏油傑も、同じ顔をしていた。何かを耐えるような、沢山の後悔を滲ませた顔。
ゆっくりと伸ばされた手が、Aの眼前に迫る。
五条悟とは違い恐怖は無い。不思議と、家入硝子の手に身体は震えることは無かった。
頬を滑る大人になった彼女の手は少し冷たくて。
煙草の匂いはしないけど、アルコールのような、消毒の匂いがする。
「あんた…変わんないね。ずっと、ずっと…何処、行ってたの」
声が震えている。腕を引かれて、抱きしめられて胸の奥がキュッと痛む。
初めて彼女のこんな悲しい声を聞いたから、どう言葉を発していいのか分からなくなる。
鼻の奥がツンとして、涙がひとりでに溢れ出した。
どうして、優しく背中を撫でてくれるの。
どうして、勝手にいなくなった私に、優しく声をかけるの。
ただの、同級生でしょ。
そんな泣きそうな顔を、どうしてするの。
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妙(プロフ) - 早く続きが楽しみです!泣いちゃいました更新楽しみに待ってます。 (3月29日 23時) (レス) @page33 id: 53e14be78c (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 最高です!!泣きました (3月28日 5時) (レス) id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
まっちゃ - とても面白いです!更新楽しみに待ってます! (3月26日 21時) (レス) @page24 id: 4ea54ee5be (このIDを非表示/違反報告)
セネリオ - 面白いです!24時間が待ち切れない…!明日も楽しみにしております。 (3月23日 21時) (レス) id: f9511cc749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なっしー | 作成日時:2024年3月21日 18時