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結局、戻ってきてしまった。
Aは何年ぶりかに足を踏み入れる校舎を見上げる。あの日々が薄らと過ぎって胃の奥が痛くなる。
桜ではなく、緑が揺らいだ季節。もう一度、この場所にやってきてしまった。
"学長”に頼まれてしまえば、断りずらかったのもあるけれど。夜蛾先生、学長になったなんて知らなかったな。
こんな長い間生き残れた事がなかったから。
キャリーケースをガラガラ鳴らしながら歩いていれば、前方から白い服を着た少年がやってくるのが見える。
こちらを見て、そして驚いたように目を見開いた。
「え、あ…あの」
「…羽柴Aです。貴方は…」
「あ…お、乙骨、憂太…で、す」
あぁ、この子がそうなのか。
夜蛾の話にでてきた子だ。
確信が得たところで、ゆっくりと微笑んだ。いつものように、得意になった笑顔を。
彼は夜蛾のいる部屋まで案内してくれた。先生は一瞬驚いた顔をしてから立ち上がる。
おかえり、なんて。こそばゆい。
夜蛾は今回の件に関して少なからず思うところはあるらしい。
電話越しでも謝られたのに、いざ対面した時も謝罪してくるものだから驚いてしまった。
昔から、この人は律儀な人だなぁ。
「そろそろ来ると思うが、大丈夫か?」
「…はい。大丈夫です」
途端に、ドタバタと足音がして扉が開く。
上から下まで真っ黒の服装に、一瞬であの日々が蘇ってくる。身体が震えた。
アイマスクをした五条悟が、それを取り去って扉の前で立ち竦んでいる。
背、伸びたなぁ。
ソファに座っているからそう見えるのかもしれないけど。
相変わらず、宝石みたいな目だ。
どんな事を言われるのかと身構える。
黙っていなくなったのはわざとだけど、こうして再会するつもりも無かったので緊張した。
五条がゆっくりこちらに歩み寄る。
泣きそうな顔が見えた。眉を下げて目を細めて、膝を着いてAと視線を合わせる。
「…A?」
信じられないものを見たような声が耳に落ちる。
こくりと頷くと、五条悟は唇をかみ締めた。
たくさんの後悔を滲ませたような、そんな顔をしている。
「…やっと、会えた。…なんなの、僕がいくら探しても…見つかんなかったくせに、意味わかんないんだよ…ほんと…」
訳が分からなかった。
だって、五条悟に敵意も殺意もなかったから。
今まで向けられたことの無い顔をしていたから。
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妙(プロフ) - 早く続きが楽しみです!泣いちゃいました更新楽しみに待ってます。 (3月29日 23時) (レス) @page33 id: 53e14be78c (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 最高です!!泣きました (3月28日 5時) (レス) id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
まっちゃ - とても面白いです!更新楽しみに待ってます! (3月26日 21時) (レス) @page24 id: 4ea54ee5be (このIDを非表示/違反報告)
セネリオ - 面白いです!24時間が待ち切れない…!明日も楽しみにしております。 (3月23日 21時) (レス) id: f9511cc749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なっしー | 作成日時:2024年3月21日 18時