Ep.17 ページ17
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やっと落ち着くお昼の保育園。
お昼寝の時間は1番体力が必要であり、中年親父のような掛け声で職員室の椅子に腰を掛ける。
「 A先生、本落としましたよ 」
隣の席の後輩保育士はそう本を拾い上げる。
それにお礼の言葉を述べるけど視線がそこから動かない。
「 この作家さんの本よく読まれてますよね!面白いんですか? 」
「 少し捻くれてるけど綺麗事言わないからなんかスッキリするんだよね。...読んでみる? 」
「 いや私には...小説とか活字が並ぶのはちょっと...」
流石保育士と言ったところか、観察眼が鋭い。
しかし、渋い表情で頭を抑えるポーズに笑ってしまう。
「 紅桜だー、今度映画化するよねこれ 」
「 この作家さん授賞式常連だしイケメンよね。結構タイプ」
担当クラスの園児を寝かしつけたのか戻ってくる同僚達はわいわいと女子トーク。
作家の顔の話になり、更に食い付き質問をしてくる後輩だけど見たことないと首を横に振れば残念そうな顔。
「 そんなに言われたらそのイケメン見たくなっちゃうじゃないですかー!家帰ったら写真検索してみよっと 」
「 えぇっと名前は... 吉田松陽?へーThe文豪って感じですね 」
呑気に呟く後輩は、表紙の作家名を確認した後ペラペラと本を捲るけど、再び眉間に皺を寄せる。
そんな隣に笑っていれば、同僚の難しそうな声が響いた。
「 そう言えばあのお道具入れの角、なんとかして削らないといけないよね。怪我する子ども続出でうちの組困ってるの 」
その言葉で思い出すのは今朝の引っかかり。
"昨日クローゼットの角に擦っただけだし"
私は手を出して欲しいと言っただけなのに、どうして怪我の原因を話すのか。
そして、あの傷はどう考えても刃物とかそう言った類で作られたもの。
自傷行為をするような人ではないと思うけど...もしかしてヤクザとかそっち!?
あの5人の中で唯一家事をこなすから1番話すことが多いけど、彼の事は何も知らないままで。
定期的に作ってくる怪我の事は以前から知っていた。
指摘する度誤魔化されていたけど、あんなに拒否されたのは今朝が初めて。
これ以上踏み入るなと訴える瞳は、暗く、冷たく、警戒したものだけど、凄く人間味があるもので。
詮索は良くないとわかってはいるけど嘘を重ねられると気になってしまう。
「 A先生、顔怖いです 」
指摘され我に返れば、もうお昼寝終了時刻。
仕事モードに切替えるべく両頬を叩いた。
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S(プロフ) - めちゃんこ好きです!更新待ってます! (8月11日 14時) (レス) @page37 id: cc16e6db3c (このIDを非表示/違反報告)
春風 - 更新ありがとうございます!とっても嬉しいです!これからも楽しみにしています! (2022年11月30日 15時) (レス) id: 1ece860df7 (このIDを非表示/違反報告)
ツバサ(プロフ) - 更新待ってました…!すごい嬉しいです!銀さん作家だったんだと驚きでいっぱいです!あと文章の書き方がとてつもなく好きです、ありがとうございます! (2022年11月28日 8時) (レス) id: 1052176700 (このIDを非表示/違反報告)
むぎ - このお話大好きです…!更新待ってます! (2022年4月4日 18時) (レス) @page31 id: fc9ca49c49 (このIDを非表示/違反報告)
粥 - 何回見ても、ストーリー面白いし好きです!更新されること願ってます!!!! (2022年1月6日 23時) (レス) @page31 id: b23a2b20e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:□白澤□ | 作成日時:2020年12月1日 12時