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…もしかして…

百日紅にも別れの挨拶してるの?

なんとなく横顔が悲しく見えるのはそのせい?

胸の奥がキュッと

音を立てて縮こまり風が攫っていった

そんな僕に気付いて

ようやく君は此方を見て

僕のおでこにデコピンをした

「痛っ!」

「何泣きそうな顔してんの?」

「そんな顔してないし 君の方がもっと泣きそうな顔してんじゃん」

僕の視線が辛いのか

君は再び百日紅を見つめる

「…泣いてないよ…僕は泣いちゃいけないんだ…」

泣いちゃいけない?

どうして?男の子だから?

それとも他に理由があるの?

君の視線の先の百日紅

盛りを過ぎた花が音もなく

ひらりふわりと風に舞い散る

それはまるで春の桜吹雪みたいで

これからするだろう別れを連想させて

…また胸が苦しくなる…

百日紅に胸元でそっと手を振りながら

君は静かに言葉を吐露した

「…この百日紅…どうなるか知ってる?」

「このままじゃないの?」

「…多分…移植されるか……処分される…」

えっ?どういう事?

『移植』ってこの百日紅 何処へ行くの?

『処分』ってなくなっちゃうって事?

だってまだ咲いてるよ!

こんなに綺麗なのに?

そんなのないよ!

…君だけじゃなく…百日紅まで…

「だっ駄目だって!そんなの絶対駄目!」

思わず君の肩を掴む

力が入りすぎたのか、君の眉間に皺が寄る

「ごめん」と呟いて慌てて離せば

君は微かに笑って木の幹をそっと撫でた

「でも…残すかどうかは…僕は決められないから…」

愛おしく滑らかな幹に触れる白い手

その仕草があまりに優しくて

百日紅はまた紅を零す

「…こんなに綺麗に咲いてるのにね」

「きっと残してくれるよ!いらないなら最初から切っちゃってるよ!」

僕は根拠のない言葉を叫んだ

君が涙を堪えていたから

言葉にすれば叶うかもしれないって

だって言霊ってそういう事だろ?

言葉にはそんな力があるって

おじいちゃん…言ってたもん

「僕が…僕が百日紅を守るよ!絶対にどっかにやったり捨てたりしない!だから…だから…」

…どうか泣かないで…

…違う…僕の前では泣いていいよ…

…君は…軽口は叩くのに…

…肝心な事は言わないから…だから…

…僕が…ちゃんと受け止めるから…

そんな言葉は風が攫っていき

代わりにまた花びらが舞い散る

君は涙の代わりに笑顔を零して

すっと伸びた白い指先が雫を拭った

「…君が泣く事ないのに…」

そう呟くと君の指先に光が灯った


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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

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