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百日紅(1) ページ1




幼い頃よく遊んだ庭の隅

咲き誇っていた大きな百日紅

夏の始まりと共に開花して

秋の訪れを告げるかの様に薄紅色を零す

「まるで桜みたいだね」と呟いた僕

「いや泣いているんだよ」と答えた君

涙を零していたのは

実は君の方だったんじゃないかな?

それは夏の気配がいつもよりも曖昧で

日常と代わり映えのしないある日の出来事

…僕の忘れられない遠い想い出…



ピンポーン!

ピンポンピンポンピンポンピンポーン!

けたたましいチャイムの音

あれ?

母さんパート遅番って言ってなかった?

父さんはまだ帰る時間じゃないし

弟は夏休みを利用しておじいちゃん家にお泊り

いつもは僕も参加するんだけど

今回はリトルリーグの試合と重なったから

しあさってに行くんだ!

弟はまだまだ甘えん坊だから

ホームシックにでもなったのかな?

でもそれなら電話してくんじゃない?

じゃあ…誰?

テレビを見ながらまったりしていた僕には

不信感しかなくて

スコープ越しでも勇気は出ない

世の中物騒だから無視に限る

そう決め込んで再びテレビを見てると

ピンポーン!

ピポピポピポピポピポピポピポピンポーン!

再び鳴り響くチャイム

取り敢えず覗いてみようと

忍び足で向かう玄関

恐る恐る見てみれば…そこに居たのは君だった

心なしか 泣きそうな表情

僕は慌ててドアを開ける

「…遅い」

「ごめん。ってか連打し過ぎ。チャイム壊れちゃう」

そう言って中へ招き入れようとしたら

君は唇を嘴みたいに尖らせて俯く

真っ赤になった顔が蛸さんみたいだ

「何かあったの?」

「お別れ言いに来た」

「はっ?へっ?えっ?」

「今までいろいろありがとう…さよなら…」

お別れ?お別れってどういう事?

「それじゃ…また」

そう言って踵を返す君

「ちょっちょっと待って!」

僕は急いで君の腕を取る

「いきなり何なの?唐突過ぎるって!少し落ち着いて!」

「とにかく…お別れを言いに来ただけだから…じゃあね…」

「一体どうしたの?」

取り敢えず玄関に引き入れて

顔を覗き込んで聞いても

君は話すつもりがないのか唇を噛んで固く結ぶ

無駄口や軽口は叩くのに肝心な事は言わない

こうなったら口を割らない頑固な君

素直になるにはきっと時間が必要だ

僕はしばし頭を捻る

「ねっ ちょっとだけ待ってて!」

「…いや…時間がないんだ…挨拶しに来ただけだから…」

「僕も一緒に行くよ!」

僕の言葉が意外だったのか

君は目を丸くした


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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

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