Sweet Raindrops ページ47
・
「帰りは雨が降るよ」って
口を酸っぱくして言ったのに
傘立ての中で寂しそうなお留守番の一本
窓に当たる雨粒が大きさを増していく
「麦茶のパック切らしていた」とか
「朝食用の食パン 買わなくちゃ」とか
誰に聞かせるでもない言い訳を
呟きながら外へ飛び出した
しとしと纏わりつき降り止まぬ雨
住宅街から駅へと向かう道すがら
入り混じる甘い香り
梔子の白い花が雫を湛えて咲き乱れる
雨に濡れると艶やかな香りは
より濃く鮮やかになるみたい
まるで自分が今している行動に
リンクしているみたいで
照れ隠しで逸る早足
思いの外 早く駅に着いて
そんな自分に思わず苦笑してしまう
改札口から少し離れた所で君を待つ
そんなまどろっこしい事しないで
連絡すればいいのだけど
あくまで「ついで」を装いたいのは
最初の素直か 最後の意地か
迎えに来ている時点でバレバレだけど…ね
電車が到着し犇めき合う人の波
少し背伸びをして君を探す
あれ？次の電車かな？
そんな事を思っていたら
見つけた見慣れた姿
そして鞄から出したのは…折畳み傘
……あっ…そっか……
…君はちゃんと聞いていたのか…
それは嬉しい事なのに
何故だろう…ちょっとだけ悲しい
そんな君と視線が合うと
慌てて折畳み傘を閉まって目尻に皺を寄せる
「わざわざ来てくれたの？」
満面の笑みで差してる傘を持とうとするから
慌てて持って来た傘を突いて渡す
「えっ？こっち？」
「……帰るよ」
自分でも解らない苛立ちに
ついついぶっきらぼうになる口調
せっかく来たのに流れに乗れない性分に
背を向けたくて歩き出す
「ちょっ ちょっと待って！」
君が視界を横切り向かった先は
券売機前で不安そうに
空を見上げる女学生の傍
爽やかに傘を渡して一礼する
…そんな事したら絶対勘違いするよ
あの子 頬赤らめてるし…
更に増した不機嫌を
何とか胸の内に押し込んで
歩く速度を早めれば
水飛沫を上げて君が傘に入り込む
「ちょっと！狭いっ！」
「迎えに来てくれたなら一本で帰りたいじゃん」
「傘 渡しちゃうのが悪いんでしょ？」
ほら あの子 こっち見てるって
「まったくもう」とぼやきかけて
柔らかく唇を包む甘い香り
傘で隠しきれない恥ずかしさと
ほんの少しの優越感と
それを上回る多幸感
綯交ぜになって一気に押し寄せる
これは梔子のせい？
それとも君のせい？
甘い雫に濡れながら帰る道
今日はちょっとだけ遠回りしようか…
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
青山白樹(プロフ) - だんぼさん» (；ﾟДﾟ)何でその設定が解ったんですか？まさか女学生がだんぼさんモチーフだって事がバレてました？笑雨の日のお迎えって面倒臭いけど2人の距離が縮まる気がしますよね。雨に濡れると甘さを増す香りの中いつまでも優しく甘い2人でいて欲しいと願いを込めました。 (2019年6月29日 18時) (
レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
だんぼ(プロフ) - 青っち〜天邪鬼で意地っ張りで、でもすごく分かりやすいあの子♪ 蒸し蒸しとした季節ですが爽やかなお話の贈り物 どうもありがとう♪ただひとつだけ心配なのは傘を貰った女子が腐ってたら…（笑）ガン見され尾行されてるかも〜2人ともッ背後に注意よ〜（笑） (2019年6月29日 13時) (レス) id: b513b55378 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» やまさんこちらにも感想ありがとうございます。雨で諦めてたピンクムーンを早朝見つけて朱鷺色に染まり始める空の中の月がほんのり染まった様に見えたんです。ピンクと言っても実際の色とは関係ないのですが。こんな場面なら小さな秘密もきっと特別になりますよね。 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» 素敵な感想ありがとうございます。昔近所に古い喫茶店が有り覗いたら意外に混んでいる店内に驚いた事があります。やまさんの話を聞いて思い出して書いてみました。ソーダ水頼んでもアイスを乗っけるそんな優しいマスターと何かが始まる予感を感じて戴ければ幸いです笑 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
やま(プロフ) - そして、一つ前のお話も大変遅ればせながら拝読させていただきました。まさに桜月夜の宵！！桜色に染まる月の光を浴びる睦じいお二人に、胸がきゅんとします♪ (2019年5月22日 1時) (レス) id: 0f4c7ca2f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：青山白樹
作成日時：2014年10月2日 12時
