djx-sept cafe ページ18
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「あれ、早かったね。ちゃんと誘えたって…あれ?」
少し不機嫌に車に乗った俺の手元を見て、そう首を傾げたのはマネージャー。
俺が持っている紙袋を不思議そうに見た。
「…誘えなかった」
「どうして?!」
誰もいない店に二人きり。
これ以上とない抜群のタイミングにも関わらず、誘えなかったことに心底驚いている顔だ。
でも、流石に俺も、そんな最高な場面で誘えないほど奥手ではない。
俺はムッと躍起になって、マネージャーに言い返す。
「隆から電話がかかってきたんだよ」
「神木くんから?」
「そう。
本当はすぐ切ってやろうと思ったんだけど、何か落ち込んでるのがはっきりわかっちゃって…」
俺はそう言って、一つため息をつく。
そして、手元の紙袋の中を指差した。
「それで、隆の分も買ってきたから話聞こうと思ってさ」
「そっか」
マネージャーは少し考えたようにそう相槌を打つと、ハンドルへと向き直った。
「じゃあ、お亮ん家じゃなくて神木くんの家でいい?」
「うん、ごめん。お願い」
「らじゃ」
そう言って、車を動かした。
俺はそっと窓から夜景を見た。
さまざまな都会のライトが現れてはすぐ消え、現れてはすぐ消えを繰り返す。
そんな夜だからか、いつもよりもスピードが早く感じる。
…今日渡そうと思ってたのに。
俺はカバンの中に入っている、一枚のチケットを思い浮かべた。
今度の三月から始まる、舞台『ライ王のテラス』のチケット。
脇役だが、同じ一つの舞台を作り上げていることに変わりはない。
むしろ自分が口下手だからこそ、そういう方法で俺のことを見て欲しかった。
ただ純粋に、俺のことを認識して欲しかった。
なぜか今日は一段と夜景がキラキラと輝いている。
膝の上のドリンクが、じんわりと温める。
まぁ、深く考えなくても、また今度会えるだろうし。
そう思っているのに、妙に不安が俺の心の中にあった。
まるで、もうあのカフェであの子に会えない、とでも言うように。
いやいや、そんなはずない、きっと会える。
半ば言い聞かせるように一人頷いていれば、隆の家についていたようで、マネージャーが俺の方を振り返ってみていた。
「何頷いてんの」
「別になんでもないっすよー」
そう言って俺はドアを開ける。
「ありがとう。また明日」
「はい、お疲れ様」
俺はマネージャーの笑顔に押し出されつつ、隆の元へと向かったのだった。
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mifulu(プロフ) - ほわさん» ご指摘ありがとうございます! バーコードって変ですね笑 これからもよろしくお願いします。 (2019年9月10日 9時) (レス) id: 8875a6e61c (このIDを非表示/違反報告)
ほわ(プロフ) - 誤字とかじゃないんですけど、最新話のバーコードはQRコードにした方が良いと思いますよ!続き楽しみにしてます!更新頑張ってください! (2019年9月10日 0時) (レス) id: d0efce02c1 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 白うさぎさん» ありがとうございます! ゆっくりになるとは思いますが、楽しんでもらえるよう頑張ります。 (2019年7月21日 23時) (レス) id: 477f578196 (このIDを非表示/違反報告)
白うさぎ - とても面白くて、毎日楽しみにしています!更新頑張って下さい(*^^) (2019年7月21日 17時) (レス) id: 33733f1464 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 華恋さん» 初めまして(*^^*) ありがとうございます! テストが近いのでゆっくりになるとは思いますが、期待に応えられるように頑張ります! (2019年6月30日 10時) (レス) id: 80a048a51f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2019年6月10日 0時