た ページ6
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とある公園の自販機で、ホットレモンティーを二つ買った。それを拾って、ひとつを及川に投げ渡す。本当は私が奢ってもらうはずだったのに。
「まぁ、楽して生きたいわけよ。
なに甘ったれたこと言ってんだって感じだけどさ」
レモンティーのキャップを開けて一口飲むと、たちまちレモンのほんのりとした苦さが広がる。
「せっかくなんだから、興味のあるところとか好きなところとか行きたいし、いろんなことだってしたいわけ。自由に生きたい。
適当に生きたいって言うとちょっと言葉悪いけど、
自分のペースで、何のしがらみにも縛られず、いろんな楽しいことやりたいの」
たった一回しかない人生。
来世があるかも分からない。
来世の証明はできない。
だから、いろんな経験をしたいし、なるべくつらい思いはしたくない。つらい思いを、絶対にしないというのは無理だと思うけど。
「そっか。……俺さぁ、六月に言ったよね。
アルゼンチンリーグで戦いたいって」
「言ったね」
「俺は、これからも敗ける気なんてないし、全員倒すつもりでいるけど……。
でも、やっぱり、本当に世界で戦えるようになるのかって不安になる」
初めて聞いた彼の弱音。
当たり前だ。及川だって人間なんだから、不安を持つことも、自分を信じられなくなる時もある。
「べつにいいじゃん。一回行ってみれば?」
「…………えっ」
「アルゼンチンなんて飛行機乗っちゃえば行ける距離だし。ていうか今の時代、地球上だったらどこでも行けるし」
「そういう問題……?」
「だってやってみないとわかんないし」
そう言うと、及川が何かに気づいたように目を丸くした。ホント、憎たらしいくらいに綺麗な顔をしている。
「アルゼンチン行って、ダメだったらまた考えればいいじゃん。バレー辞める選択肢は無いんでしょ?
愚痴くらいなら世界のどこにいても聞いてやるからさ」
飲み終わったレモンティーを自販機の横のゴミ箱に投げ入れた。一気に冷えた手をセーターの袖の中に入れて擦り合わせる。
「だって、これから何でもできるのに。
大丈夫だよ、及川なら。満足いくまでやれば?」
泣きそうな気持ちを抑えて、言った。
精一杯の私の気持ちだ。
「……そっか」
そう言った及川の横顔は、どこか嬉しそうだった。
私からの最後の応援だ。
後悔する気がないのなら、何だってやってみればいい。
だって、バレーをしているあなたが一番輝いているから。
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hwjIN___(プロフ) - 厳島神社は広島です泣 (2023年2月25日 20時) (レス) @page2 id: a610b7465a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2023年1月23日 22時