検索窓
今日:5 hit、昨日:7 hit、合計:11,098 hit

ページ6

*



とある公園の自販機で、ホットレモンティーを二つ買った。それを拾って、ひとつを及川に投げ渡す。本当は私が奢ってもらうはずだったのに。



「まぁ、楽して生きたいわけよ。
なに甘ったれたこと言ってんだって感じだけどさ」



レモンティーのキャップを開けて一口飲むと、たちまちレモンのほんのりとした苦さが広がる。



「せっかくなんだから、興味のあるところとか好きなところとか行きたいし、いろんなことだってしたいわけ。自由に生きたい。
適当に生きたいって言うとちょっと言葉悪いけど、
自分のペースで、何のしがらみにも縛られず、いろんな楽しいことやりたいの」



たった一回しかない人生。
来世があるかも分からない。
来世の証明はできない。

だから、いろんな経験をしたいし、なるべくつらい思いはしたくない。つらい思いを、絶対にしないというのは無理だと思うけど。



「そっか。……俺さぁ、六月に言ったよね。
アルゼンチンリーグで戦いたいって」

「言ったね」

「俺は、これからも敗ける気なんてないし、全員倒すつもりでいるけど……。
でも、やっぱり、本当に世界で戦えるようになるのかって不安になる」



初めて聞いた彼の弱音。
当たり前だ。及川だって人間なんだから、不安を持つことも、自分を信じられなくなる時もある。



「べつにいいじゃん。一回行ってみれば?」

「…………えっ」

「アルゼンチンなんて飛行機乗っちゃえば行ける距離だし。ていうか今の時代、地球上だったらどこでも行けるし」

「そういう問題……?」

「だってやってみないとわかんないし」



そう言うと、及川が何かに気づいたように目を丸くした。ホント、憎たらしいくらいに綺麗な顔をしている。



「アルゼンチン行って、ダメだったらまた考えればいいじゃん。バレー辞める選択肢は無いんでしょ?
愚痴くらいなら世界のどこにいても聞いてやるからさ」



飲み終わったレモンティーを自販機の横のゴミ箱に投げ入れた。一気に冷えた手をセーターの袖の中に入れて擦り合わせる。



「だって、これから何でもできるのに。
大丈夫だよ、及川なら。満足いくまでやれば?」



泣きそうな気持ちを抑えて、言った。
精一杯の私の気持ちだ。



「……そっか」



そう言った及川の横顔は、どこか嬉しそうだった。

私からの最後の応援だ。
後悔する気がないのなら、何だってやってみればいい。

だって、バレーをしているあなたが一番輝いているから。

い→←き



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (49 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
58人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

hwjIN___(プロフ) - 厳島神社は広島です泣 (2023年2月25日 20時) (レス) @page2 id: a610b7465a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2023年1月23日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。