適当に生きたい。【及川徹】 (ページ4)

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生ページ4

*

「おーいーかーわーくーん」

季節は流れ、十月。
外はもうすっかり寒くなっている。
マフラーやコートはまだクローゼットの中だが、タイツは手放せなくなった。

そして私は、今日も教室で及川に声をかける。

「ほい、これあげる」

ポイッと投げると及川が容易にそれをキャッチする。
そして、手を広げてそれを見ると、彼の目がほんの少し開かれた。

「……御守り？」

「言っとくけど専用じゃないから。自惚れんな」

「何も言ってないのに！？」

「岩泉達にも伝えといてよ。
春高全国決めたら私のおかげだから何か奢ってね」

「ウソン、俺の財布がまた薄くなる」

おどけたように言う及川に、「奢りすぎ」と思わず笑う。こいつ、結構同級生や後輩にラーメンとか奢ったりしてるよなぁ。

「私はさ、指定校推薦取って、うまくいけば来月には全部終わるし」

青城に来たのは、私立だから。
推薦基準さえ満たせば、高校受験は単願推薦で楽に行けたから。
そして青城には指定校推薦があって、これも成績さえ維持していれば(あと最低限の生活態度がしっかりしていれば)推薦をとれる。

「全国大会は見に行けるからね～。一月でしょ？」

そう言うと、及川が私を見て、自信に満ちた笑顔を見せた。

「ありがとう」

私は机に頬杖をついて、その笑顔を見つめる。
自信家な彼の笑みは、時々この世で一番イケメンに見える。いや元々イケメンな顔なんだけど。

「他の女の子に混じって『おーいかーわくーん♡』って叫ぼうかな」

「Aちゃんがそれやると……ちょっと……ね」

「オイどういう意味だこら」

指定校推薦をとれて、大学に受かったら、
高校生活、あとは消化試合みたいなものだ。

だからというわけじゃないけれど、
春高全国が決まったら、一月まではもうちょっと楽しいな、なんて。

＊

『準決勝、烏野高校対青葉城西高校では、烏野高校が青葉城西高校を下し決勝へと駒を進めました』

『いやー……。まさか青城がここで姿を消すとは』

テレビ越しの無機質なアナウンサーの声。
春高の宮城県代表決定戦。
インターハイ予選でも戦った烏野高校に惜敗し、青城は決勝会場すら見ることなく全国大会への道を絶たれた。

テレビを消して、机に向かってシャープペンの頭をカチカチと数回鳴らし問題集に目を落とす。三時間ほど経ったあと、不意に机越しに振動が伝わってきた。