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698. 失いたくない ページ3

貴方side



パッと目に入ったのは、体勢を崩すハジメとハジメに向かってカッターナイフを振り下ろす女子生徒の姿だった。

床に勢いよく叩きつけられたおしりがまだ悲鳴を上げているが、そんなことは今はどうでもいい。

ハジメが傷つくのは嫌だ。

鼓動がドクンドクン早く脈打ち、無意識のうちに手を伸ばしていた。

ダメ……ダメなの……。

もう私から奪わないで……。

ハジメまでいなくなったら私は……。

力の抜けた足に鞭打って立ち上がり、ハジメの方へと走る。

喘息なんて関係なかった。

怖いとか、カッターが危ないとか、ましてや傷つけられるかもとか考えている暇はなかった。

そんなことよりも、私にはもっと大事なものがある。

大事な人がいる。

もう失いたくない。

必死な思いでなんとかハジメに触れる。

その後はもう、こっちのものだった。

ハジメにぎゅっと抱きついて、カッターの通り道からハジメを外す。

代わりに自分が切られることなんてどうでもよかった。

痛いというよりも熱い感覚が、右肩にはしった。

でも関係ない。

ハジメが無事ならそれでいい。


岩「A!?おい、A!何やってんだよ、お前!」


ハジメの切羽詰まった声が聞こえた。

ハジメの声は珍しく震えていたけど、怪我はしていなさそうだった。

その途端、ホッと身体の力が抜けた。

目が熱くなり、涙がこぼれ落ち始める。


貴「はじ……め……良かった……生きてて……」


それは、私の精一杯の言葉だった。

699. 俺らは同士だ→←697. 大袈裟な……?



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作者名:くれは* | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年5月16日 19時

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