697. 大袈裟な……? ページ2
え、と思った。
絶対に切られるもんだとばかり思っていたから。
尻もちをついた俺の足の間には、うずくまるA。
その右肩付近のブレザーが赤く染まっている。
は……?
岩「A!?おい、A!何やってんだよ、お前!」
声は震えて裏返ってしまったが、気にしている場合じゃねえ。
なんでAは俺を庇った?
俺はお前を守りたいのに、なんで守られてんだ?
こんがらがる頭で、つい怒鳴ってしまった。
すると、Aはゆっくりと顔を上げた。
その顔は、涙で濡れている。
貴「はじ……め……良かった……生きてて……」
大袈裟だと思った。
かすり傷くらいで、カッターじゃ致命傷は負わないと勝手に思っていた。
でも、Aは溢れる涙を止めることなく俺に寄り添い、良かった良かったと呟く。
貴「怖かった……ハジメまでいなくなったら……私……」
ストン、と落ちていった言葉に、俺はようやく理解が追いついた。
Aは目の前で母親を亡くしている。
どんな経緯であんなふうに亡くなってしまったのか、俺は分からねえ。
でも、Aにとっては衝撃的でショックなものだったことには違いない。
Aは、自分の身の回りの人が傷つくのが、きっと何よりも怖いのだ。
母親のときみたく助からなかったらどうしようという不安が、Aを動かしたのだろう。
知らず知らずのうちに、俺は静かに泣くAを優しく抱きしめていた。
135人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ