番外編 ページ22
‥
「ねえ、A？」
「うん？」
夏休み明けの昼休み。なにやら真剣な面持ちで顔を寄せる舞ちゃんは、潜めていた声を上げた。
「なんで付き合って二ヶ月も経つのに二口と苗字呼びしてるの！」
「え、」
たしかに付き合って二ヶ月が経過した。互いの呼び方は以前と変わらず「二口くん」「白石」だ。
でも別にそれに理由なんてなくて、ただずっとそう呼んできたからで。
ただ、タイミングがなかったから。
いやでもいざ呼ぶとなるとちょっと緊張するかも。
「早いうちに二口のこと、名前で呼んであげてね？」
「……はぁい」
*
今日はバレー部はお休みらしい。
一緒に帰ろうと廊下でわたしのことを待っている二口くんは今日もかっこいい。
天気はあいにくの雨だけれど、傘を忘れたふりをしている二口くんと同じ傘に入れるのはうれしいから。たまにはアリかな。
ああ、そういえば舞ちゃんから宿題を出されていたんだ。
濃紺にドット柄の傘は二口くんには似合わなくて、笑みが溢れる。鞄を持ち直して傘に入ったところでそれを思い出した。
二口くんの名前は、堅治くん、だ。心の中でつぶやいた瞬間、緊張で表情筋が固まっていくのが分かる。二口くんの話に適当に相槌を打ちながら、気持ちの整理をしよう。
タイミングがないなんて言っていたけれど、自然と避けていたのかもしれない。名前で呼ぶのって、こんなに緊張するかな。
「白石？」
「えっ？なに？」
「考え事か？危なっかしいんだから歩いてるときはやめろよな」
「……ご、ごめん」
別にいいけど、なんて全然良くなさそうな声とすねた顔に焦る。
「あの、ね」
「ん」
「ええっと、うーん」
「なんだよ」
肘で二の腕を突いてくる二口くんは、ちょっと子供っぽい。
意を決して、深呼吸して。不思議そうに見る彼の整った顔を見つめる。
「堅治くんって呼んでもいいですか」
「…………」
「だ、だめかな」
わたしの顔を見ながら大きくため息をついた二口くんに顔がひきつる。
なにか悪いこと言ったかな。今更名前間違ってたり、してないよね。
「A」
「へっ！？は、はい！」
「A」
「け、け、堅治、くん」
「はい。ほら帰んぞ」
え、えええ？
なにでそんなに満足したのかよく分からないけれど、堅治くんが嬉しそうならいいか。
でも、わたしの名前を呼ばれたときに心が暖かくなった気がするから、堅治くんも同じだといいなあ。
‥
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 596人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
幸(プロフ) - あんみつさん» コメントありがとうございます！そう言っていただけて本当に嬉しいです……！こちらまだ単行本未収録でしたか！申し訳ないです。注意書き追加しておきます。 (2020年3月1日 9時) (
レス) id: 08804b505e (このIDを非表示/違反報告)
あんみつ(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても面白くて更新凄い楽しみにしてました！！すごいキュンキュンさせられてました！最後の方に本誌ネタがあるんですが多分単行本派の方もいらっしゃると思うので本誌ネタ注意と書いておいた方が良いかと…… (2020年3月1日 8時) (レス) id: 86e8f7f917 (このIDを非表示/違反報告)
幸(プロフ) - 橘さん» コメントありがとうございます！私の書く二口くんにときめいてくださっているのなら嬉しい限りです！ (2020年3月1日 2時) (レス) id: 08804b505e (このIDを非表示/違反報告)
橘 - とても面白く二口くんにキュンキュンさせられてますww (2020年2月9日 19時) (レス) id: a7677655c7 (このIDを非表示/違反報告)
幸(プロフ) - アヤミさん» コメントありがとうございます！少女漫画のイケメンような二口くんを書きたいと思い作成したので、そう言っていただけて本当に嬉しい限りです！応援ありがとうございます、これからもこの作品を宜しくお願い致します。 (2020年1月16日 22時) (レス) id: 08804b505e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幸 | 作成日時：2020年1月13日 19時
