キ ラ イ 喪 失【そらる】

page37「修羅」 ページ45

「クソッ！クソクソクソッッ！！」

誰も俺以外にこの一人部屋の病室にいないからという安心感から炙り出される悪態に醜態。いつもマイクに向かって言っている親しんだ暴言はゲームをしている時よりも怒りが凄まじい。地団駄すら踏みたくなる目の前の光景にただ爪が食い込むくらい拳を握った。

「姉妹(お前ら)はいっつもそうだ…！」

＿＿＿＿＿俺の手で苦しめよう(復讐しよう)とする時に限って自分で逝ったり好き勝手しやがる。

薬とグレープフルーツの食べ合わせの悪さで薬が効きすぎ死ぬ事を想定して姉(彼奴)に持って行ったお見舞い品を彼奴は一口も食べることなくあの世へ去っていった。こいつだって記憶を失くしたというから一気に膨大な量の情報を流し込み自我崩壊や混乱を招いて劣等感の渦に沈めてやろうと思ったのに今日来てみればこの有様だ。

「…ざっけんなよ…」

＿＿＿＿＿前に一度、こいつの首を絞めた事があった

まふくんに先に行っててと言われた日だった。俺が来てもまだAは眠っていて静かに呼吸を繰り返していた。つまりは、生きていた

俺を振ったあの女の顔で(彼奴と同じ顔で)俺が今までで誰よりも好きになったあの女の顔で(彼奴の死んだ時の様な顔で、)安らかに眠っている此奴はなんで何も抱えずに、背負わずに、思い出さずにこうして眠っていられるのか

腹が立った
腹が立って立って仕方なかった

自ずと引き寄せられる手には憎悪しか宿っていなくて、自分では止められそうにないとは正にこのことだなと遠くで考えて俺は此奴の首を絞めた。キュッと締まる首。皮膚の感じも肉感も生々しかったけど殺すという実感は湧かなかった

どんどん締まる首はついに「…か、っは」と息のし辛そうな声にならない泡を吐いた。そこで気付く。やっと気付く

＿＿＿＿＿殺すだけが復讐で無いと

苦しめなければ意味がない。早々に死なせては堪らない

そこからは簡単だった。ナースコールを押して病室に辿り着いたまふくんと一緒に如何にもな友人らしく此奴の名前を呼んで心配した、と表情を作る。起き上がった此奴は自分に妹か姉か居たのかを聞いてきたからちょうど最高の喜劇(復讐)を思いついた

それが今日ここで完結するはずだったのに

「っ早く起きろよ、なあ、なあっ、なあ！！」

早く起きて苦しめさせろ、話を聞いて絶望しろ
ガンガンとベッドの足を蹴ってみても此奴の体が揺れるだけで起きそうにない

それがどうにも悔しかった

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