page36「眼差し」 ページ44
出来たら今光輝くんの傍に居てあげて、と看護師さんに言い残され入り難い病室に一歩踏み入れた私を父親らしい男性は一瞥し
「なんだ君は」
如何にも厳格そうな出で立ちの彼を通り越して光輝くんが私の足元に抱着く。えぐえぐと喘ぎ喘ぎ泣いている彼は「おばさん」と呼ぶ事を辞めないものの咎めようという気にはなれなかった
骨にヒビが入っていない方の手で彼の頭を撫でてやると「もしかして」と父親が低い声を蠢かせ
「君が…Aさんか?」
と静かだが威厳を見せる声を轟かせた。それに少しだけ萎縮して「はい」と答えると穏やかそうな顔で
「息子を助けてくれてありがとう」
頭を下げられ慌ててそれを止めるがそれでもしっかりと感謝をしてくれる父親にそこまで怖い人じゃ無いんだ、と安心したのも束の間
「だが…出てってくれ」
その言葉に一瞬で周りの彩度が落ちだした。心臓が嫌になりだした。呼吸が浅くなった
「Aさんには本当に感謝してる。感謝してもしたりない…。だが、今の私は愛する妻を亡くした原因を貴方の所為だと責任転嫁してしまいそうなんだ…」
________私の所為、?
『……なんで、此奴の一番近くにいたくせに気付かなかったんだよ!!!!!』
「わかってる、わかってはいるんだ。でも貴方へお見舞いに行かなかったらこんな事にはならなかった筈だろう?」
________私が光輝くんのお母さんを殺したの?
『此奴じゃなくて、お前が死ねば……っ』
キィィィンと頭蓋の奥から痛みが走ってきた。目に浮かぶ情景。掴まれる胸倉。自分の顔の死に顔。泣き叫び啜り泣く声。怒号。
光輝くんに置いていた手で頭を抑えるとその異変に光輝くんは気付いたのか大丈夫?と腫れた潤んだ瞳を向けてくれたがそれに応えられそうにもない
父親は私の様子に気付くことなく青筋を浮かべている様にも崩れて泣きそうにも見える表情に拳を握り
「出てってくれ!この行きどころの無い塊を息子の恩人の貴方に向けたくないんだ!!」
頼む…頼むよ
響いた怒号とは相反してそう弱々しく呟く父親を背に私はよろよろとその病室を後にする事しか出来なかった。壁伝いにゆっくりだが確実に離れても付き纏う追いかけてくる景色が次第に目の前にセピア色として映し出されていく
目に涙を溜めながら走って来ている自分自身の姿とすれ違う。向かった先は光輝くんのお母さんが眠る病室
「っ…つ」
最後に一瞬だけ脳に浮かび上がったのは私があの部屋で泣いてる光景と責められるあの眼差し
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時