page34「華」 ページ42
_________にゃあ
そう猫に声を掛けられてやっと気付く。僕は今自分の家に居るのか、と。
あれからどうしたっけ、喧嘩したっけ。どうやって帰って来たっけ。思い出したく無いからか脳が思い出そうと機能しない。
ぼんやりと作業用の椅子に座って光っても無いディスプレイを眺めている自分にはなんだか全てを諦めてしまいそうな脱力感とどうでもいいと投げ出した無責任だけか残っていた。
そんな無気力な状態でも僕の中に居座るのは記憶が無くなる前の彼女の姿。彼女の笑顔。
思い出すと風で揺れた小枝の記憶は他の些細な記憶も波紋が広がる様に揺らぎ始めた。
_________僕は
僕は彼女が記憶を失くす前から好きだった。
始めこそ歌い手の仕事繋がりで彼女の姉を通して会ったのがきっかけだったが、それを頻繁に繰り返す内に話す機会も増えていった。
話してみて、基本あれだけ優秀な姉がいるし彼女を僻んでたりしてるのかなと先入観があったがそんな事は無く、寧ろ姉を誇り、尊敬していた。
そんな事、普通は出来る筈無いのに
僕なんてそらるさんや他の歌い手と自身を比べて、努力しては比べてを繰り返していた。大好きだけど妬む時もあれば嫉む時だってあった。
なのに彼女はそんなマイナスな感情一切無かったのだ。凄いと思った。綺麗だと思った。強いと思った。
きっとこんな人、世界の何処を探しても見つからない。
僕に不釣り合いかも知れないけれど、そんな彼女が僕の隣に居てほしいと思ってしまった。
隣で可憐に花として清く強く咲いていて欲しいと願ってしまった。
綺麗で澄んだ水なら幾らでもあげる、肥料なら幾らでも買い込む。
だから悲しい
雨を凌ぐには思い出さないでいればいいし、雷から遠ざけるには僕の家に住めばいい。思い出さなければ劣等感だって掘り返されない
全てはAちゃんの為だった
思い出さないでと言ったのも、僕の家に住もうと誘ったのも
_________全部、護る為だったのに
『どうしてまふくんはいつもそんな嘘つくの』
『全部、思い出したの』
泣きそうな顔で訴えられた彼女の顔を思い出せば僕自身に彼女を守れなかったという悔し涙が頬を伝う
全部思い出したなら、そらるさんに言われた言葉も。劣等感も。お姉さんのことも。
きっと彼女は全部に苦しむだけなのに
「約束…守れなくて…ごめんね……」
とめどなく流れる涙をいろははペロリと塩っぱそうに舐めた
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時