page33「吠える」 ページ41
「どういうこと、それ」
僕でも無いキヨでも無い、低く獣が唸る様な男声。陰に隠れていたらしい彼は片手に水を持ちながら僕を越してキヨを睨み、数歩歩んだ。
彼の黒目に怒りがチラついて見えるも、彼が彼女の安否を心配する資格なんて無いのだ。なんて独占欲に駆られただけの獣はそう吠える。
「あっ、そらるさんじゃないすか」
あまり交流の無い彼との間に軋んだ空気が流れながらもへらりと笑うコイツはもはや何を考えているのかなんて検討もつかない。ただ確かな事は
「そういうのいいから。復讐って、何?」
復讐を強調する様に吐かれた言葉遣いにキヨの笑顔はピタリと張り付いて止まる。どうにも逃げる事が出来ない様だったが、彼はそれでも笑みを絶やさなかった。そしてキヨの次に回って来た視線は僕に向かってだった。
ただ、僕が言えることはない。
「そらるさんには関係ないですよ」
冷たい、そう言いたければ言えばいい。僕は痛くも痒くも何ともない。何故ならそれで彼女を護れるから。それで彼女が救えるから。
心苦しい嘘だって、涙流す様な笑みだって、好きな人の為なら僕は軽んじず望んでそれを受け入れる。
「関係無い訳無いだろ、まふまふの言ってた事が本当なら復讐する相手って_________」
A。A。Aちゃん。
彼の言葉の後に続く言葉は彼女の名前しか見当たらない。それ以外の道が閉ざされたも同然だった。
「そらるさんが、呼ばないで下さい」
彼女よりも姉が好きだった貴方が。
姉を盲目的に見て彼女を蔑ろにした貴方が。
彼女の心を奪っておきながらその好意に気付かないフリを続けた貴方が。
_________Aちゃんを、彼女の妹という目でしか見てなかった貴方が。
ヒステリックに叫びそうな喉が世間話をするかの様に冷静に震えて、シャボン玉の様に弾けて空気中に散った。
きっとそれは目に入ったら痛いし、涙も出てしまう様なもので。誰も望んでそんなもの目に入れたく無かった。それでも僕は喉から声を出す。音を出す。彼の耳にそれを触れさせる。
悪い事を言った、申し訳ない、という罪悪感は少しだけ飲み込んだ。
「彼女を泣かしたそらるさんが気安く彼女の名を呼ばないで下さい」
そんな痛い冷たい言葉を吐いてしまう僕はきっとあの日の彼の様に盲目的にAという1人しか見ていないのだ。
わかっていても彼がこの言葉にどう感じてどう思ったかなんて知る由もないのだけれど。
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時