page31「笑顔の裏」 ページ39
「本当に思い出したのか…?」
全部、そう付け加えた目の前の彼は様子を伺う様な、それでいて何処か面白く無さそうに瞳の色は空と同化した暗闇を映していた。
「……ごめんね」
目の前の彼が欲しいのは思い出したそのものの事実と言葉なのであろうがどうにも表情が嬉しそうに見えず先をついたのは言い慣れてしまった謝罪の言葉。そして誰も聞きたくない私から始めた物語の結末は
「…嘘、なの」
言わなければいけないと思ったから。まふくんの言葉よりもキヨを助けたいと、信じたいと思ったから。散々彼の言葉に振り回された私が次は彼を振り回したとしてもバチは当たらない筈だ。
すると「は?」と息を呑むと同時に拍子抜けたとでも言いたそうな言葉が返ってきた。てっきり怒られるとばかり思っていたので下げていた頭は軽くなる。
「んだよ、本当に思い出したかと思ったじゃねーか!」
バシバシと背中を叩いてくるキヨくんに申し訳ない気持ちがあったがどうやら彼は笑って流してくれる程心は広い様だ。有り難いがまふくんが居ないこの場では私が同じ様に笑うのは違うと思い、ただ眉を下げるしか出来なかった。
「あー…っと、今からお前の過去の話をすんのも良いけどこの時間だと絶対え中途半端になるからまた明日でいい?」
そう言われて改めて自然光だけで得る何となくの時間よりもしっかりと時を正確に刻む時計を見やれば面接可能時間は残り15分を切っていた。余りにも時間は無常らしい。
「うん、いいよ。明日、全部聞かせてね」
楽しみは取っておく物だと誰かが言った。正直自分は好きな物は先に食べる派なので関係ないと思っていたが食べ物で無ければそれは健在らしい。少なくともまふくんを売る様な形で追い出した後本題に移るなんて罪悪感に苛まれる様な事出来る筈が無かっただけなのだが。
「てかまふくんの言葉なんて簡単に信じてんじゃねえぞ」
コツン、と額を軽く指で弾かれる。「いたっ」と悲鳴を上げる私を放ったらかしに歯を見せて笑う彼を私はまふくんの言うストーカーだなんて思えなかった。思いたくも無かった。
以前の私が彼をどう思ったかはわからないが今の私の友人はキヨというこの天真爛漫で悪戯っ子の様に笑う彼なのだから。
_________『キヨはAちゃんのストーカーなんだよ?』
それでも私はまふくんの言葉を忘れられないのは、記憶に留まっているのは。
「明日、楽しみにしとけよA」
病室を出る時の彼の表情が怖い位に笑顔だったから。
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時