page29「悪役」 ページ37
「やめて、ください…!」
喧騒に騒々。場を治められるなんて思っていない。それでも我先にと動いた口はA本人からだった。ぎゅっと握りしめられた拳はやはり警備員なり俺なり男が沢山いる中では恐怖を示しており小刻みに震えていた。
「Aちゃん…?」
どうしたの、なんて態とらしい。馬鹿らしい。
「…か、彼は…キヨは、私の友達です…!」
一つ一つの言葉を噛みしめて俺の固有名詞を呼ぶ彼女の言葉からは普段使われていない筈だった【キヨ】という呼び捨ての名前。
_________思い、出したのか…?
俺を、キヨを。お前の姉のことも。
「何言ってるの、Aちゃん。」
俺の心情に反して肝が冷えてしまいそうな低く獣が唸る様な声。普段なら想像もつかないに加え誰もこんな声を知らないとまでいきそうな否定的な言い方のそれは彼女を責めた。
「キヨはAちゃんのストーカーなんだよ?どうして友達なんて嘘つくの?あ、キヨに脅されてるんだね」
もはやこれが現実だとでも言う様に事実だと彼女に言い聞かす様に優しく甘くそして縋っているその姿はどうにも見ていられない程に虚空に溢れていた。
「脅されてなんか無いよ、どうしてまふくんはいつもそんな嘘をつくの」
だが、同情なんて物はしない。
彼女の言葉を中心に思考にあるまふくんや警備員の緩んだ手を振り払い、
「A」そう一つ名前を呼んだ。
ストーカーか真偽の怪しくなった俺はもう警備員に羽交い締めを食らうことは無く、まふくんは俺すら眼中に無い様に彼女に反論していた。
「嘘なんてついてないよ…!僕はAを守ろうとして…!!」
必死にただひたすらにAを説得しようとするまふくんに彼女は「私ね」と一人語りが今から始まるかの様に言葉を紡いだ。
「…失くした記憶、全部思い出したの」
_________ひゅっと喉に空気が入った。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
人間、信じたくない物ほど目の前にあると本当に視界が暗くなり同じ事しか考えなくなる様だ。何か他にも話している大好きな彼女の言葉はどうにも耳に入ってこない。
僕が悪役か?なんで?どこで何を間違えた?
警備員は彼女の話を真摯に受け止めキヨに謝罪した後に僕に「少しお話良いですか」と僕を連れて行く。
やっぱりこの世界は優しい人ほど損をするんだ。あの人も、こんな結果望んでなんかいない筈なのに。
「ぁ…A、ちゃん…」
か細くも彼女に向けた言葉は声の大きい彼に掻き消された。
981人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時