page25「盲目的な愛」 ページ33
___好きだよ
一瞬静かになった室内に新しい音が響く。彼の口は迷わずそう形を作った。
「だから、何も思い出さなくていいんだよ。今のAちゃんでいいんだよ」
自身の体が硬直していくのを感じる。治りかけていた傷口が開くような痛みが怪我を負った所ではなく胸に鈍痛の様に走る。
咄嗟に動いた自分の頭と視線に後悔を抱きながら差し込んできた斜陽に背を向ける。
どうしたらいいのかわからない、というのが本音だった。
「そうだっ!怪我が完治したら僕の家に一緒に住もうよ!Aちゃんって猫好きだったよね?僕の家に2匹居るんだけどすぐ気にいると思うよ」
「え…?まふく…」
「それにね、今までAちゃん一人だったかも知れないけど僕がいるしなんなら猫も居るから寂しい思いなんてさせないよ」
まふくん、と呼び掛けても私の方を見てるのかわからないし聞いているのかも定かではない。だが、一つだけわかるとすれば彼が私を好いているということ。私を想ってくれているということ。
「そらるさんが誰だなんて知らなくていいんだよ、わからなくていいんだ。
それに……」
シーツの上に置いた手に彼の手を重ねられて生まれる熱。その熱と同様に私に注がれる熱い視線。甘い言葉が降り注ぎそうな雰囲気の中であったがまふくんの口許は嘲るように弧を描く。
「そうだ、そうだよ…。Aちゃんはそらるさんのこと何も思い出せないんでしょ?なら、
そらるさんのこと好きなんて言える訳無いよね?」
自分自身に言い聞かすような物言い。彼の下まつげがふるふる震えている様に見えた。彼の表情が表したい物は何なのか私には生憎ながら検討もつかない。
「だって、だってAちゃんは何も覚えてないんでしょ?そらるさんのこと」
私に問うているにも関わらず私の返答なんて必要ないといえるような間のとり方と話し方。もはや独り言にも近しいそれに私はただ黙って耳を傾ける事しか出来ない。
「ならそんな相手を好きなんて言えないよね?だってAちゃんが自分で言ったんだから。思い出せないって」
さっき言った言葉が蘇る。
二人が歌ってた動画を見てズルズルと引きずられる様に出てきた歌い手という存在の記憶。だがしかし、思い出さないでと言うかの様なその表情を横目に私は確かに言った。
何も思い出せないと。
見え透いた嘘だった。だがバレてないと思っていた。
それがこんな形で自分を縛るとは思っても見なかったから。
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時