キ ラ イ 喪 失【そらる】

page6「苦しみ」 ページ14

「……どうしてそんなこと聞くの？」





少しの間を置いて、まふくんが私に聞き返す。
その表情はいつもと同じなのに言葉には威圧感が籠っていて、
部屋の中の空気は変わることはなかった。






_______聞いたらダメなことだったの……？






疑問を疑問で返してくるあたり、触れて欲しくないことだったのか、
よくわからない。








_______でも、あの人がもし私の友達だったら？









知らないことが山程ある今の私は、絶対に相手を傷つけてしまう。
そんなの、もうしたくない。




「その男の人が私の病室に来たから……
2人とも、何か知ってるなら教えて？


もし、私の友達だったなら思い…」



【思いだしたい】そういう前に









「思い出さなくていいよ！！！」









まふくんの声が被さった。

怒っているような、泣きそうな表情で
言葉を吐いたまふくんに言い返す言葉が見当たらず、
私はまふくんから目を逸らし、俯いた。









_______思い出さないことがこんなに苦しいなんて、知らなかった。









_______思い出されない方が、私より苦しいに決まっているのに。









「おい、まふお…」





キヨくんもそれには驚いているのか、
戸惑いながらもまふくんを落ち着かせようとする。





「っ……なんで…」





まふくんは苦虫を噛み潰したような、苦しそうな表情を浮かべた後、
「ごめんね、今日は帰る」と言って私達に背を向けて扉へと向かう。


今はそっとしといた方がいいとキヨくんも思ったのか、
誰もまふくんを止めないままでまふくんはこの病室を後にした。





病室の窓から入って来た風は私の髪と、
カーテンを揺らした。

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