【オリジナル】夢のなかで、私は、 (ページ11)

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「どこか行くの？」

電車通学のよっちゃんは、私を見て目を丸くした。それは自転車通学の私がこんな場所にいるからか、あまりにも顔色が悪かったからか、わからない。

「……よっちゃんは、」

由佳ちゃんじゃなくてよかった。
脳裏を過ぎったのは、そんな安堵。

「よっちゃんは……凄いね、自信があって、」

「……何かあったの？」

「……何もない日なんてない。嫌いだった、よっちゃんの、無能のくせに自信家で、しゃしゃり出て、それで……私を見下す目が大嫌いだった。私をハブろうとするところも、」

「なに、言って……」

「でも、本当は羨ましかった」

よっちゃんが息を飲む。彼女の黒い瞳に映る私は、酷い顔をしていた。

いつから、いつも通りが変わってしまったんだろう。
自問自答しても、もう遅い。どこから間違っていたんだろう、なんて考えたところでやり直しはできない。

「私には、出来ないから」

「どうしたの、急に、」

いや、違うのか。
私は唇を噛み締めて、心のうちで復唱する。耐えるようにスカートを握りしめる。

──『三番ホームに電車が参ります。皆様、黄色い線の内側までお下がりください』

無機質な放送が鼓膜を震わす。私の瞳も震えた気がした。視界が歪む。

しっかりした足取りで、前に進む。足元には、いつかの彼らが蹲っているような気がした。助けを求めているような気がした。許しを乞うている気がした。
けれど、私は後悔なんてしていなかった。

「環！」

よっちゃんが私を呼ぶ。けれど、振り返らない。掴まれた手を振りほどいて私は進む。前へ、進む。

夢のなかの私は強かった。悪を捌いた。弱者を嬲る人間に罰を与えた。後悔なんてしない。私は正しくて、間違っていた。

後悔なんてしたら、私は私を否定しなくてはいけない。私が全て悪くて、諸悪の根源で、社会に適合出来ない愚者だと、認めなくてはいけない。だから、後悔なんてしない。出来ない。

──変わったのは周囲じゃなくて、私だった。

「環……ッ、待って、」

電車がやってくる。眩しいライトが、私達を照らす。その明かりを消したくて、眩くて、私は一歩、踏み出した。

全身に痛みが走る。後悔はなかった。
よっちゃんが私を呼ぶ。悲鳴が聞こえる。シャッター音が、聞こえる。

けれど、そんなことどうでもよかった。
そう、夢のなかで、私は、

──誰よりも、強い存在だったから。

私は、自分の選択に後悔はなかった。