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「ねえ、一つ聞いても良いかな」
退社の間際、私はまた呆気なく、太宰さんに後ろを取られてしまっていた
今度はそっと、弱々しく振り返った
目を合わせるのは胸が耐え切れなさそうで、少し高い位置から降る声に耳だけを傾ける
「Aちゃんは、包帯アレルギーなのだよね?」
そうじゃないけど、そうだ
太宰さんにそんなことを云わせてる自分が、改めて莫迦らしく感じて
同時に、それを嘘だと申し出れずに、意地を張る自分が情けなく思えていると
「なら、私のことは?」
「…………えっ」
「私のことを好きになる余地はあるかい?」
そんなの、あるに決まっていた、むしろ
意地っ張りを拗らせた私が悪いのに、臆病と羞恥心を克服出来ずに居るのは私なのに
太宰さんの声音が静かなことに、胸が突っかえを覚えて苦しかった
「君、云ったよね、私のことは " 好きでも嫌いでもない " って」
砂色の外套の裾が映る視界の中、視線を泳がせながら小さく頷いて肯定を示す
そんな私に、続けて太宰さんの声は降り掛かった
「包帯アレルギーが治れば、君が私を避ける理由はなくなる、けれど大事なのはその後だ」
ふと、左の頬に手が伸ばされる
添えられた手に導かれて太宰さんの方を向くと、真っ直ぐ見つめ返してくるのは鶯色の瞳
その手のすぐそこまで、包帯が包んでいることも忘れ去り、その深い色の中へ惹き込まれそうになって
「私はそれだけで終わらせる気はないから」
そう云って微笑む太宰さんに、私はただただ胸を高鳴らせた
けれどそれも束の間、大きく跳ね上がる心臓の音が、私の正気を取り戻してくれて
「……そ、それは、どういう」
口から出たのは片言な疑問
聞いた太宰さんは、返事の代わりに、にっこり笑って見せた後
まるで大事なものを触れるように、愛おしそうな手つきで私の頬に手を擦り寄せた
「く、くすぐったいです」
「ふふ、可愛いね」
しばらく続いたそれに、恥ずかしくて我慢出来ず、顔を背けようかとしたタイミング
狙ったようなその折に
「実はもう一つ予言があってね」なんて、太宰さんから目を外すことを許されずに云われるものだから
息を呑んで、私は予言を待ち受けた
「包帯アレルギーが治ったら、君は私に告白する」
外れたことのない、太宰さんの予言を
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桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
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